ひきだし。
繊維製品製造は、企画者の『こうしたい!』が起点にあると、ひきだしの多さと組み合わせによる結果の導き方が理解できていれば、あとはパズルゲームで、それなりに楽しいものである。
求められている答えが明確な場合は、上記のアプローチで物は作れる。手持ちのひきだしの数や組み合わせによる結果の経験値が足りていない場合は、出口がわかっていてもたどり着けない迷路にハマることもある。
一方で、ひきだしや組み合わせのパターンをどれだけ多く持っていたとしても、それだけでは出口のない企画に対してはほとんど無力に近い。そこに想像力とチャレンジ精神が合わさって初めて、オリジナリティに辿り着けるのかもしれない。
繊維製造界に入隊して20年近くたつと、概ね起こりうるだろう事象には触れられる。それでも未知の領域は多く、理論上は生成できても、そこに人的要因や予測不可能な自然要因などの部分が加味されると結果は全く違った顔を見せる。
様々な因子に触れ、ひきだしは増えていく。それは物質的にも、人の行動パターンの癖みたいなものでも。
さておき、繊維産業の製造に関しては、ものづくりの起点は原材料から始まる。
このスタートラインに立つ川上の紡績という立ち位置の方々は、日々どんな糸が求められているかを模索しながら、かつ自社の工場設備稼働率も意識しつつ、ある程度見切り発車的に糸企画を進めて在庫まで持ってしまうところが多いと思う。それは結果的に見ればアプローチとしては間違いだという人もいるかもしれないが、服の状態になっていなければ生地感さえも判断できない人が多くなってしまった川中下の人たちに対して、見たこともない糸を原料リストや紡績テクニック、及び番手だけで商品化のあたりをつけるなんてもう不可能な世界になりつつある。
最近は本当に減ったが、昔は紙に書かれたリストだけで糸の営業をしていたところもあった。
今は最低でも糸の見本帳、または生地になっている状態が普通で、なんならターゲットとしている製品サンプルまで作って提案している紡績も多くなった。これはこれで、時代だし、顧客目線に立てば、チョイスしやすい世界になったので便利だし、成約率もグッと上がったことだろう。凄まじい努力の上に、こういったインフラを整えてくださっているサプライヤー様方の商品企画貢献度は相当大きいと考える。
この点を付加価値と考えて原料売価が上がるのが望ましいのだが、結局そこは同原料で価格に見合った差別化を考慮できない場合、値段で弾かれて商売につながらないケースも多い。
提案用途で出口までのイメージをつけやすい状態まで作り込んでも、アイデアだけ持っていかれて商売はない、なんてことも日常茶飯事である。
これは本当にフェアじゃないなと思うけど、見たものを他所で真似しないでねって言ったところで、蓋ができるもんでもないので、現実問題としてある。そしてそれ自体を防ぐにはいちいち商標登録などしていく必要があるので、そこまで経費積めないし、いちいち模倣品を探し出して法の元で裁いてもらうために動くのも面倒で仕方ないから、結局放置されているものが多い。
むしろそれを良しとしているところもあるので、ここに関してはもうノータッチでエネルギーを別に注いだ方が賢明な判断なのかもしれない。
懸念点は、模倣だけでなく、やはり企画者の想像力がどんどん下がっていくことだろう。これがアパレルメーカーにとどまらず、テキスタイル企画のところまで来てしまうと相当危うい。
オリジナルで作ったと思っても、提案時にみた生地や製品にはどうしても引っ張られてしまう。それは糸の企画者としては成功していたとしても、最終的なアウトプットがどこのメーカーがいじっても似たり寄ったりになってしまうようだと、出口になる顧客層は狭き門なので結局値段でどこが安いかという話になりがちだ。
これに危機感を感じているところが、製造業でも自社ブランド化をはかっているというのが今の現状といったところかと。
ものすごく脱線した。
ことモノづくりのひきだしは経験によって増えていくので、伝聞や座学だけでは理解できない領域も、試してガッテン。想像力を働かせて思うままにレシピを書くのさ。そうやって依頼指示したものが実際にどういう物で上がってくるかを重ねていくのさ。