『自分の足で歩むことに決めました』
総勢10人の小さなベンチャー企業が、
2000年の歴史を持つ「ねじ」に革命を
起こそうとしている。
らせん構造を持つ従来のねじは時間
の経過とともに緩むリスクがあるが、
特殊な構造を持つ「緩まないねじ」を開発。
大変刺激的なタイトルに惹かれました。
この緩まないねじを生み出したのは、
「NejiLaw(ねじろう)」(東京・江東)の社長、
道脇裕氏(37)。
きっかけのひとつは19歳のころ、ねじが原因
で自分の運転する車のタイヤが外れたこと
だったといいます。
ねじの締める力を強くするには、ボルトとナット
など互いのらせん構造を精密に作り込んで、
摩擦力を強くすることが研究者やねじ業界の常識。
それは今も変わらないそう。
従来も「緩まない」を標榜するねじはありました。
しかし、道脇氏は既存の商品は締め付ける摩擦力
に頼る「緩みにくい」ねじだったとみていました。
そこで、らせん構造そのものにメスを入れ、
摩擦に依存しない「緩まない」ねじを
実現しようとします。
NejiLawの主力品「L/Rネジ」のボルトには、
右回りで締めるナットと左回りのナット、
両方に対応した山が作り込まれています。
2つのナットは同じ動きはしません。
互いがぶつかると、相手をロックすることで
緩みを封じます。
2000年の歴史をもつ「ねじ」に革命を起こそうと
している道脇氏。
10歳ごろに「僕は今の教育システムに疑問を
感じるので、自分の足で歩むことに決めました」
と一方的に小学校に“休学宣言”したそうです。
以来、漁師、とび職など様々な仕事を経験しながら、
常に自分の頭で考えて行動を決めてきたといいます。
携帯電話が広まる前から、無線機を使って双方向
で同時通話できるシステムを作るなど、
学校にいかなくても発明を続けます。
米国に渡って学んだこともあり、緩まないねじは
道脇氏のひらめきとこだわりから生まれたものでした。
道脇氏はねじの山の形を変えることで、
用途に応じた 緩まないねじを次々と
発案します。
しかし道のりは平たんではありませんでした。
「こんな難しい構造は作れない」
製造を委託しようにも金属加工メーカーから
は断られます。
そこで自ら製造工具や光学的な品質検査
手法を開発して、商品化に道をつけます。
L/Rネジの開発途上だった4年ほど前、
米航空宇宙規格(NASA)に準拠した試験
をしたところ、合格ラインの17分間まったく
緩まなかったそうです。
それどころか、3時間ほどたつと試験装置
のねじが壊れます。
緩まぬねじの評判はたちまち広まりました。
ねじの歴史は紀元前3世紀の数学者、
アルキメデスの揚水ポンプの構造にまで
遡ることができます。
日本では16世紀に種子島に伝わった火縄銃
にねじが使われていました。
この緩まないねじが量産されれば、金属などを
締結する手法として、安全と耐久性が
必要な分野に市場が広がることでしょう。
道脇氏は、全国の橋梁の老朽化が進み、
架け替えや補修が必要となっていることから、
緩まないねじを使うことでメンテナンスの手間
が減り、溶接作業を減らして建設コストの削減
につながると考えています。
日本ねじ工業協会の推計によると、2013年の
ねじ国内生産額は前年比横ばいの8371億円。
道脇氏は「専門技術が必要な溶接などから、
ねじによる締結へ切り替えが可能になり、
2000億円の新規需要が生まれる」とみています。