『未来を生き抜くイノベーション力』
ここ最近、「量子コンピューター」の研究に関する
国内外の動きを様々目にすることが多くあります。
これまで主流であったコンピュータの場合、
1つのビットが一度に表せるのは「0」か「1」の
どちらかだけ。
ところが「量子ビット」は、同じ確率で同時に
「0」と「1」の両方の状態をとることができると
いいます。
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つまり、スーパーコンピューターをはるかに
凌ぐ計算能力を持つものです。
国立情報学研究所は、量子コンピューター
に生物の脳の仕組みや、進化の概念を
取り入れた超高速量子計算機「量子人工脳」
のコンセプトを提唱。
この「量子人工脳」は、創薬や電気工学、金融
など、あらゆる産業分野で、複雑な問題の解決
に役立てることが期待されているのだそう。
今後、産学官で実証研究に乗り出し、2018年度
末を目途に技術を確立するとのことです。
さてコンピューターが代替する人間の知性
には、以下のような5つの段階があると
いわれています。
生データ→情報→知識→経験→知恵
少し前まで、生データや情報を「より多く知っている」
人間が、世の中で評価されてきました。
しかしネット技術が発達し、現在グーグル検索で
織田信長の生涯から、英語圏での最新トレンドワード
までもが瞬時に取り出せることが可能に。
コンピューターよりも多くの物事を知っていることは
事実上不可能。少なくともビジネスの世界では、
物知りだけで重宝される場面はほとんど目にする
ことがなくなりました。
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斉藤ウィリアム浩幸さん(インテカー社長)が
言うには、「知識や経験の領域」までも
コンピューターの新技術にキャッチアップ
されつつあるそう。
たとえば、「iPhone」に搭載の音声認識ソフト
「Siri」。文脈全体から使用者の意図を読取る
仕組みになっています。
”「太郎は犬を歩かせている」という文章を
読み取らせる際、仮に電車が近くを通過して、
「犬」という単語が読み取れなかったとしても、
人間が歩かせるなら多くの場合は犬だろう、
と推測して、「犬を歩かせたのですね」
と正しく判断することができます。
また発言の一部が聞こえなくても、瞬時に
知識や経験と照らし合わせて、文脈で行間
を読取る仕組みは人間の脳と一緒。”
著しく進化するコンピューター技術と発達する
ネットワーク社会。
私たちがの生活や仕事に多くの便利さを提供する
一方で、危うさも秘めています。
米デューク大学の研究者、キャシー・デビッドソン氏が
2011年、ニューヨークタイムズ紙のインタビューで
語った予測は大きな波紋を呼びました。
”2011年度にアメリカの小学校に入学した子どもたち
の65%は、大学卒業時に今は存在していない職業に
就くだろう”
情報化が進むに従い、私たちの働き方は大きく変化
しています。企業がイノベーションを進めるたびに、
業態の変化によって新しい職業が生まれ、既存の
専門職を置き換えつつあることがよくわかります。
”かつてワットが発明した蒸気機関は、農村の
田畑を耕す牛馬の仕事を代替しました。
その結果、現在の先進国における農業人口の
割合は2%前後です。
悪い言い方をすれば、残りの大多数の98%は
農村を追い出されて、別の仕事をしなければ
ならなくなったわけです。
コンピューターの革新は、おそらく同じように、
大多数の人々を現在の仕事から追い出すこと
でしょう。
生データや情報を活用して働いてきた人は、
さらに経験や知識を活用できる仕事へ。
経験や知識を売りにしてきた人は、さらに知恵
を絞って世界に新たな価値をもたらす仕事を
模索しなければなりません。
これからの時代のビジネスは、人間の知性
段階がより高次なものを志向しなければ、
通用しなくなるでしょう。”
(斉藤ウィリアム浩幸さん)
先ほどの65%という数字は米国を対象とした
予測であり、日本でも同じようになるかは
分かりません。
但し、グローバル化が進む世界では1つの国で
起こった変化が他の国に瞬く間に広がることも
事実。
このような状態でこれから増えていく職業は
何でしょう?
米国の教育関連ニュースサイト「MindShift」では
、大学生が今まで存在しなかった職業に就くために
どの専門を選ぶのが有利かを考え始めていること
が報じられています。
コミュニケーションやチームワークなど「転移可能
な一般的能力」を重視するようになっているそう
です。
ICTを活用しながら高度な思考をフルに発揮し、
世界の課題をイノベーションによって解決していく
「グローバルでタフな」人材。
「優れた解決策を見つけるよりも、
優れた問いを見つける方がはるかに難しい。
逆に言えば、優れた問いを見つけることさえ
できれば、それを解くのはそれほど難しい
ことではない」
私が現在参画している、21世紀型教育プロジェクト
「サス学」は、こうした社会の変化と求められる人
材や能力に対応し、持続可能な未来を共創できる
個人を育てるもの。
(「サス学」は三井物産㈱の登録商標)
柏市のネクスファで、小学4年生から中学2年生まで
を対象に毎週「サス学」授業を行っている他、
三井物産(株)による「サス学」アカデミーが昨年から
実施されています(朝日新聞、朝日学生新聞の協力
有り)。
今春子どもたちがトライした「問いを立てる」取組み。
将来どんな問題にぶつかろうとも、それを粘り強く解決
していけるような地力をつけていってほしいと願って、
行ったもの。
サス学では知識ではなく、実践的な能力を身につける
ための取組みを重視しており、その裏ではカリキュラム
を創り出すことの苦労と喜びがあります。
社会に向き合いつつ、その都度必要知識
や情報をいかに活用するかを自分の頭の中
で再構成し思考する力が、今後重要になります。
他者と話し合ったり情報交換することで、折り合い
をつけながら、現在よりもより良いモノやコトを
創り上げることは、コンピューターにはまだ難しい
ことでしょう。
自分の言葉で相手に分かり易く伝え、その場に
応じた的確な表現により、問題を解決し社会の
発展につなげていくイノベーション能力。
これからの社会を創る子どもたちだけでなく、現在
社会を築いている私たち大人にも求められる力
ですね。
最後にピーター・ドラッカー博士の言葉を紹介して
締めたいと思います。
”昨日を捨てよ。自分が得意だと思っていること
に溺れるな。物事の「本質」を鋭く透察する心を持て”