『進歩と格差の間の終わりなきダンス』
ノーベル経済学賞を受賞したアンガス・ディートン教授
(プリンストン大学)。
貧困を減らし、幸福感を得る生活を実現するには、
消費行動の理解が必要だと指摘し、経済が発展して
も貧困が残るという格差の背後にあるメカニズムを、
統計的に解き明かしました。
スウェーデン王立科学アカデミーは、以下の
ように受賞理由を説明。
「ディートン教授の研究は、例えば、どの収入の社会
層に、食品の付加価値税の増額が影響を及ぼすのか
、といったことを判断するために使われ、政策立案者
たちに大きな影響を与えた。」
「貧困を減らし、社会福祉を充実させる経済政策の
立案には、まず個々人の消費の選択を理解する必要
がある」とも説明し、教授の研究が発展途上国での
生活水準と貧困の関係を知ることにも貢献した」
と強調。
ディートン教授は著書 「大脱出 ― 健康、お金、格差
の起原」 の中で、格差についてこう述べています。
”単純に考えると、貧困からの脱出は金銭的な問題
だと思いがちだ。
だがお金と同じくらい、ひょっとするともっと重要なの
かもしれないのが健康と、繁栄する機会を手に
入れられるだけ長生きする確率の向上だ。
(中略)
大脱出の道のりを人類の大きな進歩と前向きに
評価する。実際、近代以前の世界と比べると、
世界は経済的に豊かになり健康状態も改善した。
他方、人類の進歩にもかかわらず格差は厳然と
存在し、経済的格差に加え、健康格差の問題と
して多くの人々を苦しめている。”
「進歩と格差の間の終わりなきダンス」と教授が
呼ぶ、現在の状況。
2008年リーマン危機後の世界を「ニューノーマル」
と名付けたエコノミスト、モハメド・エラリアン氏は
現在の世界経済の状況を以下のように見ています。
ニューノーマルの終わりが見られる世界が今、直面
しているのは新興国による先進国への支えが
弱まり、世界的な金融緩和によるカネ余りという
危うさも抱えた世界。
OECDは、「貧困層ほど経済危機の打撃が大きく、
格差と貧困のリスクが増す」ことを統計データから
発表。
”2007年から2010年にかけて、貧しい世帯の方が
豊かな世帯よりも多くを失い、得るものが少なかった
という傾向が見られます。
データがある33か国中21か国において、富裕層の
上位10%は貧困層の下位10%よりも収入が
増えました。
経済危機以前の所得水準を基準とした貧困層の
数は、ほとんどの国で経済危機の最中に増加して
います。
子どもの貧困率はOECD加盟16か国で2007年
以降増加しました。特にトルコ、スペイン、ベルギー
、スロベニア、ハンガリーでは2ポイント以上増加
しています。
これは、OECD諸国で高齢者に代わって若者と
子どもが、所得の貧困の危機に最もさらされる
年齢層になったという、以前に明らかにされた傾向
を裏付けるものです。”
ディートン教授は、今回の受賞決定を喜びつつ、
”世界の経済は良くなっているといわれるが、私は
、目をつむった楽観主義者ではない。
世界の貧困問題は、依然としてとても悪い状況
にある”、と指摘しています。