『自分の中から出たものは一生役に立つ』
滑空するだけのグライダーと、動力を持った飛行機。
「知識が増えると、まねたくなる。知識の通りにしたく
なり、常識的になる。知識をありがたがってグライダー
人間になると、自分で飛ぶことを忘れてしまう」
「思考の整理学」が186万部の大ベストセラーになり、
「知の巨人」と称される外山滋比古先生の言葉。
社会で生きていくためには、ある程度の知識は必要。
そこで大は小を兼ねるから、知識はたくさんあった
ほうがいい、と考えがちになる。
それらを借りてくれば、自分で考える必要はないから、
手間も省けて便利だし、たくさんの知識を会得すれば
、さらに多くのことをまねできる。
しかし、知識を増やしているうちに、考える頭はどんどん
縮小し、思考力はよけいに落ちてしまう。
1つの正解を覚える、正解主義はまさにこの状況を
つくっていると思います。
「明治期以降、日本はとにかく先進国に追いつけと、
まねをしてきた。その段階では確かに知識がいる。
だが、追いつく相手がすぐそこまで迫っている。
追いついたらどうなるか。進む力がなくなってしまう。
自分で新しいものをつくり出す思考力が必要になる」
外山先生はこれを「知的メタボリック症候群」と呼びました。
外山先生は、そのためにも、まずは「忘れる」ことが
肝心だといいます。ただ忘れるのではなく、うまく
忘れることが重要。
「知識だけいくら集めてみても人間的成長につながら
ないのでは。それより自分の頭で考える思考の方
が重要なのではないか」
お茶の水女子大教授だったころに抱いた知識偏重
への危機感が、外山先生の出発点。
本を読んだり、勉強して知識を得る。ごく当然の
知的活動に思えるが、そこにいま欠けているのは
「生活」だと指摘します。
「生活の上に知識や教育がなければ駄目。
生活をすれば必ず失敗がついて回る。
それが人間にとって刺激であり、新しいことに向かう
エネルギーになる」
外山先生は、考え方を変える、ちょっとしたことに
気付く、すると本来の力が目覚めたように視界が
ガラリと変わることがあるといいます。
”今の世の中は、知識があれば賢いとか、仕事に
成功すれば偉いとか、非常に形式的なことを考えて
います、資格とか経歴とかね。
人間力というのは、あまり問題にない。しかし、
実際には非常に大事なことです。
その人間力をつけるには学校へ行ってもだめなん
です。いいかげんな仕事をしてもだめです。
今の人はだいたいにおいて幸せで、生活に関しても
昔に比べれば随分恵まれています。
こういう時に人間力を育てるということは大変困難
です。伸ばそうとしても思うようにいかないのです。”
私たちが本来持っている力=「人間力」。
勉強をしたけどうまくいかない、就職もうまくいかない
、生活は苦しい、思わしくないことが重なって本当
に困った、何とかしてこれを乗り越えて負けずに
生きていこう。
そう思えた時に、「人間力」が出てくるといいます。
”水の風呂は冷たくてたまらないから飛び出します。
ぬるま湯は、いい気分といっていつまでも何もしない。
すべて今の人がそうだとは言わないけれども、昔に
比べて世の中や家庭が良くなったのです。
物質的にです。
だから何もしないでぼんやりしています。人は人間力
がなくても努力しなくても生きていかれる。
何でもいいんです、高い目標を作って、とにかく
真剣になって努力するのです。
1つ目は上り坂、万事が好調で何をやってもうまくいく
時。二つ目は下り坂、不調に陥って思い通りになら
ない時。三つ目の坂、これは“まさか”という坂。
外山先生は昔、子どもに論語や四書五経を教えた
そうです。もちろんすぐには分かるわけないと思った上で。
でも十年、二十年たって「ああ、これだ」と分かる
感覚は、未知が既知になる一種の発見だといいます。
知識とは違う。自分の中から出てきたものだから
一生役に立つ。
全ての事には確かな意味がある。その中に人と人と
の出会い・別れ、御互い様が含まれる。
いつも自分が試されますね。