『ながい坂を歩む』
昨日の照隅会「神渡良平人間学」で鈴木中人
様と神渡良平先生のお話をうかがいながら、
思い浮かんだこと。
「仕事と人生」には三つの坂がある。
1つ目は上り坂、万事が好調で何をやっても
うまくいく時。
二つ目は下り坂、不調に陥って思い通りに
ならない時。
三つ目の坂、これは“まさか”という坂。
山本周五郎氏の長編「ながい坂」。
”飛騨藩の平侍の長男として生まれた主人公、
三浦主水正は貧しい平侍の出身。
8歳の時に普段何気なく使っていた小さな橋が
無くなっていたことを機に、眼に見えざる不条
理なものへ対峙していく。
「小三郎はもう8歳ではなくなった」と文中にある
ように、そこから己の人生の主となり己の歩む
べき道を定め、「ながい坂」の登坂を開始する。
幼いときに受けた屈辱感をばねにして勉学武道
に励み異例の出世をしていく主水正。
主水正は川の堰堤工事、郡奉行、町奉行、大
火事の迅速な後始末、川の氾濫時の適切な
治水対応、孤児の寄宿舎建設などを見事に
こなしていく。
しかし、反対派一味の画策により、城主は江戸
の下屋敷に監禁され、命を狙われて逃亡生活
に入る。
そして主水正は仲間とともに、相手方に見つか
らないよう地下活動を続ける。
約20年後、江戸では城主が、国元では主水正
が呼応し同時に決起して、反対派封じ込めに
見事成功。
主水正は城代家老に抜擢される。”
8歳の時に自分の人生を変えると決意し、「ながい
坂」を登りはじめる主人公。
その道は決して一本の道ではなく、多くの選択肢の
なかで孤独感を味わいながら、一歩一歩道を切り
開いていく主人公。
物語の後半に、主水正は息をするのが苦しいほど
言い様のない不安に襲われる。
夜の闇を歩き回り、波立つ心を必死に抑えようとする。
必死に、少しずつ弱い自分をなだめながら一歩一歩
進む様は、地に足を着けながら身を置いている世界
の中で一所懸命に生きようとする人間の姿が見えます。
全ての出来事には確かな意味がある。
その中に人と人との出会い・別れ、御互い様が
含まれる。いつも自分が試されており、その
取組み次第で成長につながる。
”何か考えて生きるというよりも、とにかく真剣
に生きなきゃいけない。
今の人達は、常識的に言えば幸福だけれども、
本当の成長ということを考えると、これはかなり
危険な状態です。
努力をするきっかけがないんです。
外山滋比古先生の言葉を思い出しながら、
支えられることや御蔭様のご縁の有難さ、
人間学の大切さがつくづく心に沁みます。
参考:『自分の中から出たものは一生役に立つ』