『輪廻転生の宇宙』
「(人間を輪廻転生させることはできそうにないが)
宇宙を輪廻転生させることは、可能であり、宇宙論
もそこまで来ると、極めて仏教的な世界観に近い」
「輪廻する宇宙」(横山順一著 講談社ブルー
バックス)は、宇宙論という科学思考の到達点が、
ダライ・ラマの世界観に近いという、大変ユニークな
内容です。
”インフレーションとビッグバンからはじまったこの宇宙は
これからどう進化していくのか。一般相対性理論と
場の量子論に立脚した現代宇宙論は、わたしたち
の想像をはるかに越えた宇宙の将来を予言する。”
この本の副題は、「ダークエネルギーに満ちた宇宙の
将来」。
昨年発売された「Newton」誌の「ダークエネルギー」
では以下のように説明しています。
”「ダークエネルギー(暗黒エネルギー)」について、
映画の中で世界征服をもくろむ悪役が探している力
のこと、ではない。それは、研究者たちが真剣に追い
求めている、宇宙最大級のミステリーの名である。
似た名前をもつものに「ダークマター」(暗黒物質)
がある。見えない物質「ダークマター」は、かなり
ミステリアスな存在だ。
しかしそれをこえる不可解さで科学者たちの頭を
悩ませているのが、ダークエネルギーなのである。
わずか十数年前まで、私たち人類はその存在に
気づいていなかった。
ところがなんと、宇宙の成分のうち、およそ7割は
ダークエネルギーなのだという。さらに興味深いこと
に、ダークエネルギーは宇宙の運命をもにぎっている
らしい。まさに「宇宙の真の主役」といえるだろう。 ”
宇宙は、その初期に光速を超えるほどの勢いで膨張した
と考えれば、宇宙のあらゆる方向であってももともと膨張
前はごく近い距離の空間であり、相互作用して等温
一様になっていたと考える「インフレーション理論」。
日本の佐藤勝彦氏とアメリカの天文学者グース氏により
提唱されたものです。
宇宙の膨張の歴史を調べるために、宇宙背景輻射の強度
分布がくわしく調べられるようになり、NASAは1990年代
初めに打ち上げた宇宙背景輻射探査衛星(COBE)の
観測から、予測どおり10万分の1というごくわずかな非一様
性を検出しました。
この小さな「ゆらぎ」こそが、銀河を形成する種となったのでは
ないかと考えられています。さらに、この「ゆらぎ」をくわしく観測
することで、宇宙の正確な物質の量やその歴史を知ることが
できると考えられました。
宇宙の膨張を加速するものは、実は未だにその正体がまったく
わかっていない「ダークエネルギー」。
その存在は超新星の観測のみならず、WMAP衛星(COBE
に比べて20倍もすぐれた分解能をもつマイクロ波観測衛星)に
よる宇宙の温度分布観測からも指摘されています。
宇宙年齢は137億歳であること、宇宙は永遠に膨張し続ける
こと、そして、現在は第2のインフレーションともいえる時期で、
膨張速度が加速しつつあることなどが、これまでの調査などで
わかってきました。
宇宙にあるふつうの物質はたった4%であり、23%はダーク
マター、残り73%はダークエネルギーの配分。しかし、
これらがいったいどういうものなのか、天文学者・物理学者は
新しい謎に挑戦中です。
”大きなエネルギー密度を持った小さな宇宙は、初期宇宙
と同じようなインフレーションを再び起こし、わたしたちの
宇宙が経験してきたような進化をもう一度繰り返すことに
なるのである。
しかし、トンネル効果で行き着いた先は、必ずしも
わたしたちの宇宙の初期状態とは同じでないかもしれない。
その場合は、今度は違った宇宙に進化することになる。
これはまさに宇宙全体の輪廻転生であり、一つ一つの
宇宙には始まりと終わりがあっても、全ての宇宙の進化
をあわせて捉えると、大宇宙全体に始まりも終わりもなく
、その中で一つ一つの宇宙が生成消滅を繰り返している
のだ、ということになる。”
(「輪廻する宇宙」)
参考に、以前書いたブログ『ビックバンと孔子暗黒伝』も
合わせてお読みください。