『持続的な未来を目指す投資』
JICAが、社会貢献債を発行するとの日経記事。
「国際協力機構(JICA)は9月にも社会貢献債(ソーシャルボンド)を200億円発行する。国際機関が今年定めた同債券の定義に沿った日本初の発行となる。調達資金は途上国向けの円借款や投融資などに充てる計画。環境や社会への配慮、企業統治を重視するESG投資の流れに日本でも弾みがつきそうだ。」
この「ソーシャルボンド」は、債券発行で得た資金を途上国支援や地球温暖化対策など、社会的な課題の解決に当てる債券のこと。日本国内では、2008年から個人投資家を対象に販
売されており、最低100万円前後から購入できるもの。
投資を通じて社会貢献できる上に、利回りが比較的高いこと、投資が何に使われるかが分かる、という商品特性が、個人投資家に受け入れられて13年の発行額は1041億円。12年1169億円、11年1078億円と、3年連続で1000億円を超えているようです。
「ESG投資」について、そもそもESGとは、環境(Environment)、社会(Social)、ガバナンス(Governance)の頭文字を取ったものをいいます。この3つの観点を考慮して投資するのが「ESG投資」。
よく比較されるSRI(社会的責任投資)と異なるのは、SRIが投資対象を選別基準に適合する一部の企業に限定しているのに対し、「ESG投資」は世界の全企業を対象とするものです。
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そして、「ESG投資」を大きく後押ししているのが、国連の責任投資原則(UNPRI)。国連環境計画(UNEP)と国連グローバル・コンパクト(UNGC)が、ESG投資を推進していくイニシアチブ。UNPRIには、世界1,500機関以上の基金や運用会社などが署名し、ESGは特殊な投資手法でなく、一般的な投資手法になりつつあります。(詳しくはこちら)
世界最大級のプライベート・エクイティ・ファンドであるKKR(コールバーグ・クラビス・ロバーツ)。プライベート・エクイティ・ファンドとは、複数の機関投資家や個人投資家から集めた資金を事業会社や金融機関に投資するもの。同時にその企業の経営に深く関与して、「企業価値を高めた後に売却」することで、高いIRR(内部収益率)を獲得することを目的にしています。
KKR社の「2015年度ESG・シチズンシップ報告書」には、ファンド運営に大きな影響を与える機会領域として気候変動への適応、農業発展の支援、疾病の治療・予防、インフラ整備への投資、資源の有効活用の5つが示されています。今後これらの領域への投資が加速
されていくことでしょう。(詳しくはこちら)
また、約31兆円を運用する米国最大の公的年金基金カルパースは、投資先企業の経営に積極的に物言うことで有名ですが、年率7.5%の高いリターンを実現するには、環境・社会・ガバナンス(ESG)を投資判断に組み込む「ESG投資」が必要だと言っています。(詳しくはこちら)
JICAが発行する月刊誌 「monthly Jica」。かつて私は2008年に、インタビュー取材を受けたことがありました。テーマは、”企業連携 経済成長を支える新しいパートナーシップ”。 当時所属していた企業(リコー)の生物多様性保全担当の立場で、以下のように答えたことを覚えています。
「企業は自然生態系から多くの恩恵を受けて、経済活動を行っていますので、企業がこれからも存続していくには地球環境が健全であることが欠かせません。企業がビジネスで必要とする資源の大半は、 途上国から来ています。
資源を大量に収奪し、生態系を破壊する行為は、一時的な発展にはつながるかもしれませんが、決して持続的ではありません。 地球環境の回復力を支える生物多様性を保全し
ていく努力は、グローバルな社会的責任を果たすという ことであり、セクター間の壁を越えて取り組むべき、人類共通の大きな課題だと思います。
(『経済成長を支える新しいパートナーシップ』)
このインタビューから早8年が経ちました。冒頭で紹介した「ESG投資」が、今後ますます拡大しながら、その目的である未来社会がサステナビリティ(広く環境・社会・経済の3つの観点による持続可能性)になることを願っています。