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遊女の小指

2018.09.22 03:50

夏の暑い日の事、私は静岡のある旅館に泊まった。

その旅館は自然に囲まれた所にあり、とても静かで落ち着く場所だった。得に不穏な噂などは無く、私も友人も何事も無くその旅館で一晩泊り帰って行った。


しかし明らかにそこに泊まった日から、深夜全てが寝静まった2時ごろになると、寝ている私の顔の横に、なんとも豪華な着物を着た女性が座るようになった。

おそらくそれは遊女だのだろう。そして幽霊なのだろう。

寝室のライトに照らされた彼女はとても美しく、しかし畏怖を感じさせない。

そして彼女は毎晩、なんとも悲しそうな顔をしながら私の小指に自分の小指を絡ませてくるのだ。

そうされた私はと言えば、なんとなく何かを思い出しそうになるのだが、結局何も思い出せず夢うつつに「申し訳ない」と思いながら、私も彼女の小指をギュッと握り返している。