"Marie Claire 10月号(2018)" ギョンス インタビュー訳
ドラマ<100日の朗君様>の第一話が放送されてから15時間が経った。彼の初主演ドラマが、tvN月火ドラマ史上で初回最高視聴率を記録したという知らせが届いたころ、チェックのシャツにチノパンを履いた青年が気配もなくスタジオ入りした。同行スタッフの存在がなければ気づけなかったであろう素朴さがとても印象的な世子様の登場だったがそれよりも印象に残っているのが、寛容な空気感の奥にある彼自身が俳優として得た多彩な顔つきだった。
2014年の映画<カート>で始まるフィルモグラフィーを振り返ってみると、ド・ギョンスは自身に当てられるスポットライトや歓声からは少し離れたところで俳優として意識的に地に足をつけようとする人物らしい。スーパーでパートとして働く母を持つ10代の息子役(<カート>/2014)、視力を失った国家代表柔道選手役(<ヒョン>/2016)、どうにかして1800万ウォンの学資金ローンを返済しなければならないビデオ店のアルバイター役(<7号室>/2017)、柔弱な軍人役(<神と共に>/2017)となっては困難で薄幸な暮らしへと入り込む。そしてその慣れない世界で平均以上、あるいは誰もが納得するほどの素晴らしい演技で俳優としての才能と可能性を証明してきた。絶えずジャンルとキャラクターを異にして積み重ねられたバリエーションがいま水面上に顔を出そうとしているところだ。今年の冬に公開される映画<スウィングキッズ>では北朝鮮軍の捕虜"ロ・ギス"としてスクリーンのなかで思う存分自由であるだろうから。
彼の淡泊な言葉をそのまま借りるなら、ド・ギョンスは「良い演技をする。」声と言葉の強弱、ぼんやりしていたかと思えばハキハキとした応答など、笑顔の奥にたびたび垣間みえる"良さ"がただ習慣づけられた感情ではないことを知った。下に続くインタビューでは慎重でありながらも落ち着いた声で"良い"という言葉が11回出てくる。(録音したインタビューでは24回も使っていた。)好きでやっている人の演技を観る側さえも好きにさせてしまう力がある。その健全な叙事を同じ時代に見ることができるというのは実に喜ばしいことなのだ。
_今朝<100日の朗君様>の初回放送視聴率は聞いた?
ギョンス:寝てたら電話がかかってきた(笑)たくさんおめでとうと言ってもらえて嬉しい。
_初めての主演ドラマだが配役の比重とは別に現場では責任感もあったのでは?
ギョンス:今回の作品を通して責任をより感じるようになった。台本もかなり読みこんだけどまだまだ不十分だと感じた。台本を10回読んだとしても10回じゃ歯が立たないほど。ドラマはジャンルの特性上ストーリーが長くもあり物語の時間軸に沿って撮影が進むわけでもないので、前のシーンがどうだったのかを読み返したり時々こんがらがったりもする。そんなこともあって念仏のように台本を読み込まないといけないなと思った。
_1年のうちで、映画作品<スウィングキッズ>と<神と共に2>、アニメ作品<アンダードッグ>、さらにここへドラマ作品にコンサートまでこなした。ド・ギョンスという人物は時間と体力をどう配分しているのか全く想像がつかない。
ギョンス:たぶん数年前なら不可能だったと思う。EXOがデビューして7年目に差し掛かり少しずつノウハウを得た。コンサートの準備や振付けの練習など以前よりも早く習得できるようになった分、そこで上手に時間配分をするようにしている。
_ある者は言う。いくら夢中になるとはいえ時には息を整えながら壮大な絵を描くものだと。それなのにド・ギョンスのフィルモグラフィーは今日を生き抜くためだけに最善を尽くしているかのようにみえる。
ギョンス:ある意味すべては過ぎ行くことなんだけど、"今"こそが何よりも大切な時間だから。だから常に最善を尽くす…。そう、僕は。誰かを失望させるのは良くないという気持ちが強くて、またそんな一面を見せるのも嫌で、だからなおさら頑張る。もちろん自分自身の願望もあるからそれを満たそうと努力するのだと思う。
_自己満足が原動力になるタイプ?
ギョンス:確実にそうだ。もちろん魅せる職業だから大衆の満足が一番だけど僕自身の基準も高い。結局は自分のやる事だからまずは自分が満足しないと。それでこそ観客も満足させられるんだといつも思っている。
_今年の冬に公開される映画<スウィングキッズ>は、ダンスと音楽で展開する軽快な作品でもあるが、1951年の捕虜収容所を背景としていて大韓民国現代史のほんの一部分のみが描かれている。これまでの映画作品<カート>と<7号室>でも同じように俳優として社会の一角について話してきた。
ギョンス:人間味ある作品が好きだからかもしれないが、選択過程で時機がジャストだったように思う。物語の時代と社会的背景は違うけれど、多くの人と作品を通して共感しそして僕の演技で誰かの疲弊した心が奮起すれば、そうなればすごく嬉しい。
_学資金の返済で苦しむ青年だったり保護要注意兵士だったりとド・ギョンスが演じる人生はたいてい容易ではない。弱者の代弁をするというのはある意味で勇気のいることなのに躊躇うことなく恐れもしないようだ。
ギョンス:全くだね。恐れるようなことなのかな?むしろ自分がその役を演じられるというのが有難くて光栄なことだ。そういった面でも俳優はとても素敵な職業だと思う。
_映画<スウィングキッズ>の役作りでタップダンスを習得したようだが難しくはなかった?
ギョンス:かなり難しかった。タップダンスは踊りではなく楽器の使い方を教わるイメージでアプローチしなければいけない。全身を使って大きくみせる点もそうだが、ドラムを叩くように足を曲げて音を出す原理だから最初は簡単にはいかなかった。普段から体を動かしているにもかかわらず自分は運動音痴なんじゃないかと思ったくらい。主体となってリズムを作れるのと、その過程で出来上がる音を聴いたときは快感である。
_俳優としてのメリットのうち一つは作品を通して新しいことに出会えるという点だ。
ギョンス:今でも暇さえあれば足を動かしてる。そういうのってすごく良いと思う。作品を通して自身の長所や武器を手に入れられるから。
_ジャンルとキャラクターをこつこつと変えてやってきたけどなんでも挑戦してみたいタイプ?
ギョンス:すごく的確。これまで心に傷を負ったキャラクターや幼く見えるキャラクターを演じたならキャラクターも徐々に成熟して変化があるんじゃないかな。人間が歳をとって変わるのと同じように、時が経って僕が出会うキャラクターの特性も変わると思う。ありのまますべてを見せたい。
_映画<スウィングキッズ>の主人公"ロ・ギス"こそ男らしく好奇心旺盛な青年だと聞いたが。
ギョンス:これがまあすごくて(笑)今まで演じてきた人物のなかでぶっちぎりで男らしいキャラクターなんじゃないかな。僕のいまの年齢で可能な好奇心溢れるキャラクターの頂点だと思う。だが一方では問題児のようでもあるんだけど正義感をもっていて。だから憎めないヤツ、そんな人物だ。
_ド・ギョンスといえば浮かぶのが真面目で落ち着いているというイメージの型を一度壊してみたくて選んだの?
ギョンス:ところで僕はそれほど落ち着いているわけでもないよ。近しい人は知ってると思うけどイタズラをしたりもする。ロ・ギスというキャラクターでもそんな一面がけっこう出てる。僕がこれまで見せてこなかった一面が。番組などでふざけるのは…(笑)できないけど、団体生活をしていると他のメンバーが担ってくれる部分もあるから逆に大人しくしている場面が多くてそういうイメージが強いのかも…。
_自由奔放なキャラクターを演じていると人間ド・ギョンスも自由を感じたりする?
ギョンス:そういった部分が本当に良いなと思う、演技というのは。普段したことがなくて、することもなかっただろう事を物語のなかで自由にできるから。ものすごく大きなメリットだと思う。
_やってみたい事がたくさんあるの?
ギョンス:というよりかはシナリオを読みながら、これまで思いもしなかった自分の姿を改めて知ることがたくさんある。「このキャラクターがこの台詞を言うときはこんな感情だろうな」と察するが、「でも俺だったらここでああするのに」と自分に置き換えたりする。演技を通して自分では気づかなかった別の姿。それまで想像もしなかった自分のとある一面が出てくるようだ。
_没頭したキャラクターによっては日常でのド・ギョンスも影響を受ける?
ギョンス:普段の自分は自分であって、演じる現場ではそのキャラクターに出来るだけ没頭する。キャラクターの影響よりも時差の影響を受けることが多い。ひとつの作品に没頭すると生活パターンが完全にひっくり返るから作品が終わったあとはうろたえたりなんかも。ドラマ撮影期間は早朝に始まり夜中まで続くこともあるから、撮影がオールアップしても4時間寝たら反射的に目が覚めてしまう。結局起きてぼーっとしててもなんだかぎこちなくて。台本を読むなり暗記するなりしないといけない気がして、現場に向かわないとって(笑)今は撮影当時よりもぐっすり寝てるけどそれでも確実に規則正しくはなった。
_演技活動を始める前のド・ギョンスと、演技活動を始めてからのド・ギョンスの一番大きな違いは何?
ギョンス:監督やスタッフ、俳優の皆さんなど現場でたくさんの人と触れ合いながら影響を受けて社会人として一回り成長した気がする。大人っぽくなったというか。演技の部分よりもそこが一番大きく変わった点だと思う。演技活動を始める前は何も知らない子供だったとすれば、作品を一つずつ経験するたびにいろんな人から様々な話を聞くなどして成熟するようだ。
_社会に適合していったということ?
ギョンス:でもみんなそうなると思うけどね(笑)ドラマや映画の現場は他の仕事に比べてもペースがものすごく早い。歌手として活動するときはメンバーやマネージャーたちといつも一緒にいるけど演技の現場では監督や俳優陣も含め、毎回のようにスタッフが変わるから新しい人たちと触れ合いながら威儀を正すようだ。
_俳優として今の位置にたどり着いたのは自身のどんな一面のおかげだと思う?
ギョンス:自分の話はあまりしないタイプだ。しんどくてもしんどいとは言わず一人で抑え込む。こんな性格がときには気の毒に思うこともあるけどそれよりも長所として生きることのほうが多い。周りに迷惑をかけることを極度に嫌うのも同じだ。そんな性格のおかげだと思う。人に迷惑をかけるのが嫌いだから。
_一方ではその性格のせいで疲れたり自分が惨めになったりしない?気を休めるために二度も身体を動かさないといけない状況を覚悟しないと。
ギョンス:人に迷惑をかけるくらいならそれくらいは構わない。だから予め自分を鍛えておいて、仮に二度身体を動かす過程でストレスを受けたとしても過ぎてみれば大した事ないはず。誰かにとっては配慮となる場合もあるし何よりもそれが良いことであって、間違ったことではないから。そういうふうに僕は考える。
_間違ったことではないが簡単なことでもない気がする。
ギョンス:両親の影響が大きいかな。たとえ大変だったとしても子供たちに話したり顔に出したりしなかった。たぶんどの親もそうだと思うけど。近くにいながら自然に身についたんだと思う。
_作品から離れているときのド・ギョンスの気持ちの状態が気になる。
ギョンス:だいたいは平穏だ。ストレスを感じるときもあるけどできるだけ早く忘れようとする。何よりも"不安を感じている"状況自体が苦手なので平常心を維持しようと心がけている。いつどんなときでも。
_この先どんな役柄のオファーだったら即決する?
ギョンス:これまでも、あれがしたいだとかしないといけないと思って決めたのではなく、良い時期に作品と出会えた。映画<7号室>の"テジョン"のような場合はシナリオを読みながらやってみたいという気持ちが強くなったけど、いま思い返すとこれまで演じたキャラクターたちはみんなジャストなタイミングで僕の元へ来たのではないかと思う。作品というのは望み通りになるものではないから、だから余計にこれまでの作品たちは運命のように決まっていったように感じる。そんなふうに良い時期にちょうど舞い込んできた作品であれば、また、自分もやってみたいと思うようならこれといって悩むことなく決めるだろう。
_直感で決めてきたというわけだ。
ギョンス:シナリオを最後まで読んだ後に決める。すべては自分がやることだし、どうしていけばいいのかは現場で監督とスタッフそして自分自身とで解いていくものだから。大事な決め事を目の前にして相談にのってもらう方たちもいるけれど最後は自分の気持ちに従う。これまでの作品たちは全て、シナリオを読んだときにこれはやらない選択はないなと思うものばかりであった。だからこそ次の作品ではどんなキャラクターに出会えるのかが楽しみだ。
_俳優として少しずつ余裕ができたようだね?
ギョンス:作品を選ぶ範囲が広がり僕の経験値も上がってきたし、また自分についてもさらに理解が深まって。同じキャラクターでも以前は「あぁ、難しそうだな」と感じても経験値の上がった僕は「今ならできそう。楽しめそうだな。」と見定める余裕が出てきたのかもしれない。
〔訳:xiu0348〕