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シーズーと一緒に映画

シーとピーコ

2018.09.23 05:37



呼んでいる   胸のどこか奥で

いつも心踊る   夢を見たい


かなしみは   数えきれないけれど

その向こうできっと   あなたに会える



風邪をひいて咳が、止まりません。

東窓の古びたベージュのカーテンは、まだ暗いままです。

カーテンを捲ると、東の空が仄かに紅く染まっています。


雨が続いて、愛犬シーズーのシーと、しばらく散歩に行っていません。

喉の痛みと咳と鼻詰まりの身体で、散歩に行くことにしました。


シー

散歩に行くよ


シーは玄関ホールを一回り走ったあと、焦茶色の引き戸の扉に、何度かジャンプして催促です。

リードを首輪につけようとしても、ジャンプするので、手間取ります。



短く刈られた垣根付きの歩道に出ました。

紅葉でもないのに、紅い葉がたくさん見られます。


東の空には、縦長の雲がいくつか浮かんでいました。

一様に紅く染まっています。

紺碧色の空は、まったく染まっていないのに、縦長の雲だけが不思議と染まっています。


シーは、身体ごと前に進むのでリードが引っ張られます。

久しぶりの散歩に、興奮気味です。


Instagramに載せる動画を撮ろうと、iPhoneの操作のため立ち止まると、シーは振り向いて見つめます。


その丸い顔の大き瞳が、紅く染まっていました。

曇りのないつぶらな瞳が、紅く見えます。


紺碧色の空を、黒い野鳥が飛んで行きました。

どこからか、小鳥のさえずりも聴こえて来ます。


大学生の頃、シーと同じように相棒として飼っていた、赤目で黄色のセキセイインコのピーコを思い出しました。



勉強もせずに、本ばかり読み漁っていた頃。

大江健三郎の「見るまえに跳べ」に感化されて、平凡な人生から脱し、自分のやりたいことを模索していました。


友達も少なく、ピーコとばかり話しをしていました。

寝転んでテレビを観ていると、よく肩にとまってくちばしを口の中へ入れて来ました。


ピーコは、自分で鳥籠の入り口を、くちばしで器用に持ち上げ、外に出ることもできました。


その日も、母が買い物から帰り、両手に荷物を持ったまま玄関の扉を開けると、ピーコが玄関ホールで鳴いていました。


あっと思った瞬間。

ピーコは扉の隙間から、飛び出してしまいました。

慌てて母が追いかけても、すでに大空の彼方です。


学校から帰ると、母からピーコが逃げたと聞かされました。

奈落の底に、突き落とされたような衝撃です。

暗くなった夜空を見上げました。

月が仄かに浮かび、星が遥か彼方から光を届けていました。


母が跡を追うと、夕焼けの空をスズメの群れの1番後ろに、1羽だけ黄色の小鳥が飛んでいたそうです。

ピーコがスズメを仲間だと思い、追いかけていたのかもしれません。



翌朝から、自転車に鳥籠を乗せて、近所を探し回りました。

林のように樹々が密集しているところは、念入りに見上げました。


ピーコ

ピーコ

ピーコ


深いかなしみの中、ピーコが私に1つのことを教えてくれたような気がしました。


見るまえに跳べ


相棒の私があまりにも不甲斐ないので、ピーコは、勇気を出して大空に飛び出し、大切なことを教えてくれたのだと思いました。



東の空は、縦長の雲だけではなく、空自身も紅く染まり始めました。

やがて大きく丸い太陽が顔を出し、眩しいくらいあたりを輝かせました。


iPhoneからは、「千と千尋の神隠し」の「いつも何度でも」が、木村弓の歌で流れています。


呼んでいる  胸のどこか奥で

いつも心踊る  夢を見たい


かなしみは  数えきれないけれど

その向こうできっと  あなたに会える


繰り返すあやまちの   そのたび   ひとは

ただ青い空の   青さを知る


果てしなく   道は続いて見えるけれど

この両手は   光を抱ける



シーが、紅く染まった垣根の下から、顔を出しました。

シーの丸い顔も、白とゴールドの体毛も紅く輝いています。


天井は、青い空でした。


シー

ありがとう


シーを、両手でそっと抱きしめました。