タイ映画「ワンス・アポン・ア・スター」(2023年)Netflix おすすめ キャストとあらすじ
おすすめ度:★★★★☆ ノスタルジックな移動映画館の夢と現実を描いたヒューマンドラマ
Netflixでタイ映画「ワンス・アポン・ア・スター」(2023年)を観ました!1970年のタイを舞台に、地方の街で映画を上映して回る「移動映画館」で働くマニトとルンケーとその仲間たちの物語。映画を愛する人たちの喜びと時代に翻弄される苦悩が、ノスタルジックな映像とともに描かれた作品。ストーリーの一部として織り込まれている実在したトップ映画俳優の存在にも注目。
製薬会社が運営する移動映画館
物語の舞台は1970年のタイ。オソット製薬会社がタイ各地で自社の商品を売るために、広告活動として運営していたのが野外で映画を上映する「移動映画館」。小さなバスに機材を積み込み、地方の小さな町村を周り、昼間は集客のための宣伝をし、夜が更けたら星空の下で白い布に映画を投影する。
この時代、映画は音のない無声映画(サイレント映画)だった。上映する映画のストーリーにあわせて、レコードで音楽をかけ、セリフは声優がその場で吹き替えをしていた。こうして、村々では夜の娯楽として観客に親しまれていた。
ある日、オソット製薬の移動映画館が女性声優を探していると聞きつけたルンケーがバスにやってきた。3年間、女性声優として吹き替えを担当していた経験があるルンケー。秘書になって大企業で働く夢がある彼女は、タイピングを習いにプラナコンにいくまでの1か月半、お金を貯める必要があった。
声優として即戦力だったルンケーはすぐに、上級班長マニト(ボス)と仲間のマンさん、カオと一緒に移動映画館で声優として一緒に働くことになる。
男性声優のマニト役は、なんといっても安定のウィアー・スコラワット・カナロット(Weir Sukollawat Kanarot)。出演作品では、タイドラマ「Bangkok Breaking / バンコク・ブレイキング」(2022年)、タイ映画「Dew / デュー あの時の君とボク」(2019年)などがおすすめです。
女性声優のルンケー役はタイドラマ「オー・マイ・ゴースト / Oh My Ghost (OMG)」(2018年)のヌンティダー・ソーポン(Nungthida Sopon)。移動映画館では紅一点で、すぐにみんなのアイドルに!
映画俳優ミット・チャイバンチャー
マニトとルンケーが吹き替えをする映画作品のなかに、ミット・チャイバンチャーという実在したタイのトップ映画俳優が出てきます。ストーリーの中でも大人気の俳優さんで、移動映画館の仲間もみな憧れる存在として描かれ、マニトたちが実際に撮影現場に居合わせるシーンも。
その時にサインをしてもらったブロマイド写真が移動映画館のバスに貼られ、4人と一緒に地方巡業の旅をします。「ミット」は「友達」という意味で、彼が友達を何より大切にしていたことからつけられた名前だったんだとか。きっとタイの映画界では今でも尊敬を集め、敬意を持って語られる伝説の俳優さんなのだと思います。
ミット・チャイバンチャーは1970年、ヘリコプターでのアクション撮影中に転落事故で亡くなったそうですが、その事故がこの映画のストーリーの一部としても織り込まれています。ミット・チャイバンチャーを知るタイの視聴者のみなさんにとっては、フィクションとリアルの境界線が見えなくなるような、不思議な感覚になるんじゃないかな。
移動映画館と時代の移り変わり
タイの映画やドラマにはたまに出てくる移動映画館。20世紀後半のタイでは、こんな風に人々がエンタメを楽しんでいたなんて…観客の様子を見ていると夏祭りの夜みたいな雰囲気で、なんだかとても情緒があります。
とはいえ、時代は1970年。製薬会社の広告活動として行われていた移動映画館も、時代の流れに押されて、「ラジオやテレビに広告費が持っていかれている」といった厳しい現実も描かれています。ライバル会社も移動映画館を運営しており、その競争もそれなりに激しかった様子。
移動映画館は、映画上映そのものが観客の入場料として収益になっているだけでなく、上映とあわせて販売する薬の売り上げで、事業活動が成り立っていた。なので、事故で上映が続けられなければ返金、薬が思ったほど売れなければ目標未達成となり、移動映画館が続けられなくなるといった苦労も。
ルンケーの心の傷
ある夜、オソット社とライバル社のカンパナト製薬の移動映画館が、同じ場所で上映することになり、客の取り合いになってしまった。いつものように吹き替えをしながら、どうも様子がおかしいルンケー。実はこのライバル社の男性声優サクは、ルンケーの元夫だった。
ルンケーが3年間声優を務めていたという移動映画館は、このライバル社だった。女にだらしないサクと離婚し、会社を退職。次に進むためにプラカノンを目指し、そのために乗ったオソット社の移動映画館のバスだったのに、また嫌な過去と向き合うハメに…。
明るくて魅力的なルンケーに徐々に惹かれていくマニトとカオ。一方で、元夫サクとの離婚で負った心に傷を負ったルンケーは、新しい恋をする準備はできていなかった…。
映画対決
ある夜、ミット・チャイバンチャーの死を追悼するため、移動映画館同士で出演作品を上映し合う映画対決が行われた。マニットとルンケー率いるオソット社と、サク率いるカンパナト社。いずれもミットが主演する映画で吹き替えを行った。
君の声のおかげで僕がよく見える。心からお礼を言うよ。
ミットのセリフを吹き替えながら、あの日、撮影現場で会ったミットがかけてくれた言葉を思い出すマニット…。ミットへの想いのこもった吹き替えに会場が沸いた…。そしてこれが、4人にとって最後の移動上映になった…。
タイプライターと映画館
「タイピストになって大企業に勤めたい」と話していたルンケー。声優として吹き替えの仕事をしていたのは、プラカノンで夢を叶えるためだった。
ルンケーとのお別れの日、マニット、マンさん、カオの3人はルンケーにタイプライターの贈り物をした。そのタイプライターを持って、ルンケーは夢を叶えるために新しい道を行く。
だが、ストーリーはそこで終わらない。一年後、ルンケーの語りとタイピングで綴られる物語、そこは映画館の一室。看板には、吹き替え、マニット、ルンケーの文字。
何が好きかを確かめなきゃ。夢を見る前に。
映画を愛した人たちの物語は、その後も映画館で続いていく。
あわせて観たい作品
タイ映画「ワンス・アポン・ア・スター」でノスタルジックに描かれている「移動映画館」。そんな屋外上映シーンが出てくる作品に、タイドラマ「10 Years Ticket」(2022年)があります。移動映画館そのものがテーマのドラマではありませんが、こちらでも常設の映画館へと移り変わる時代で、見る人に夢を届けていた当時のタイがノスタルジックに描かれています。超おすすめの作品。