映画「愛しのアイリーン」
以前から見ようと思っていた「愛しのアイリーン」。
昨日、シネクイントで水曜サービスデーで1,100円なのに、本作の吉田恵輔監督、「苦役列車」「オーバーフェンス」の山下敦弘監督、「童貞。をプロデュース」でひと騒動あった松江哲明監督のアフタートークがあるということで、ラッキーでした。
原作は未読です。新井英樹さんは、あまり漫画を読まなくなった頃から出てきた漫画家さんなので、「ザ・ワールド・イズ・マイン」の作品名を知っているぐらいで、読んでいませんでした。
ひと言でいうと、愛し方がヘタクソな人たちの物語ですね。
愛情表現がヘタなのではなく、愛し方がヘタ。そして、愛がないわけでは決してない。
岩男は、性欲と愛情の境界がなく、自分でもどっちがどうなっているのかよく分からない。だから、40歳過ぎて独身なのに、やたらと体のうえではモテたりもする。
岩男の母は、息子を溺愛する方向性が間違っている。自分の愛情の発露によって、結局自分が望むようには息子が育っていないことに気づかない。でも、溺愛する理由が明かされるから、もう切ない。
ボケてしまった父・源造がいたからこそ、かろうじて保っていた何かが、完全に崩れてしまったのでしょうね。
私の中のどこかには、小さな岩男がいて、小さな岩男の母が確実にいる。だから笑いながら、哀しくなるし、怖くなります。
フィリピンからやってきた嫁アイリーンと対照的な立ち位置にいるのが、岩男の見合い相手候補だった琴美。国と立場が違うだけで、実は人物としては2人は結構近いものがあるのではないかと思ってしまいました。
そういう意味では、塩崎と対照的な立ち位置にいるのが竜野。一方は日本でのフィリピン人売春の元締めで、一方はフィリピンで日本人男性との結婚斡旋業。フィリピン人女性の扱いに義憤を持ちながらも女性の扱いは酷い男と、ビジネスライクでありながら、そこそこ幸せになる方法を考えている男。 こういう構図は面白いですね。
印象的なシーンは、2人の最初のキスシーン。これは、タイトル通り、アイリーンが愛おしい。アフタートークでの話によると、キス直前のところはアイリーン役ナッツのアドリブだそうですよ。やりよるな。
そして、このまま微笑ましく仲睦まじくなっていくのかと思いきや、吉田監督の映画ですから、そうはいかない。 何が引き鉄ということもなく(いや、大きな引き鉄はあるのだけれど、それだけでもない)、各所で歯車が狂い始め、その結果ある事件が起こり、そこを基点にガタガタと全てがおかしな方向に崩れていきます。
「あー、そんな展開になっていくのかーーー」と思いながら観ていました。
アフタートークで面白かったのは、ラストシーンの話。
原作の流れに沿った、5年後のシーンを撮影していたのだけれど、なんだかストーリーを説明しているだけのような気がして、バッサリと切ったとのこと。 そのことによって、ラストシーンでのいろいろな会話が、真実をしゃべっているのかどうかも確認できなくなりました(もちろん、原作を知っている方は分かっているでしょうが)。
真実なら真実でいいし、その場で出てきた嘘だったとしても、それはそれでいい。そんな終わり方になったので、よかったのでしょう。だから、アイリーンには、小さくてもいいから幸せを見つけてほしいです。