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たくさんの大好きを。

闇に染まれ光よ広がれ、その引き金は(頂き物

2018.09.30 13:29

とても素敵なお話をある方から頂きました(๑>◡<๑)

とてもとても素敵な二人を書かれる方で私の大好きな尊敬する方です(๑>◡<๑)

本当に本当にありがとうございました😊

2枚目の銃口を突きつけられる冴羽さんに書いて下さったお話ですが、一枚目と三枚目のイラストを後から添えさせて頂きました。

世界観を壊していないかドキドキですが、、、

私の大好きなダークな冴羽さん参上です(//∇//

「どうだ、最期に言い残すことはあるか?」

 がちりと固い金属音を立て、男は獠へと銃口を向けた。引き金を引けば最後、丸く開いた穴から厄災が勢い良く襲い掛かる。そうして等しく与えられるのは完全なる死。避けることは出来ない。それがいかに最強と謳われた男であろうとも。

「最期に言い残すことねぇ……」

 それまで男の言葉にじっと耳を傾けていた獠は、ポケットに手を突っ込んだままふうと息を吐いた。

 ──今日はついてねーな……。

 そう思う獠は今、不機嫌だ。

 すやすやと眠りに就いていたのに朝早くから叩き起こされ、「伝言板見に行くわよ!」と朝食抜きで引きずられたかと思うと香の周囲にこそこそと不穏な気配を感じ、追いかけて路地裏に飛び込めば裏社会ナンバーワンの地位を欲する男に銃を向けられる始末。

 まったくもう朝っぱらからバタバタと忙しない。ナンパも上手くいかないし空腹だ。おれが何したっつーんだよと何度もぼやくうちに獠の胸中で苛立ちが募っていく。

 我慢も限界。もうそろそろ許容メーターが吹っ切れるかもしれない。

「おい、何とか言ったらどうなんだ」

 ぼんやり夢うつつな獠を不審に感じたらしい。聞いているのかと男が怒鳴った。

 銃を突き付けられているというのに獠は焦りや恐怖などを見せず、むしろ気だるげな表情でじっと佇んでいる。余裕すら感じさせるこの態度、なるほどこれが裏社会ナンバーワンなのかと男は納得した。

「そうだなぁ」

 うーんと唸ってから獠はようやく言葉を継いだ。

「特にないな」

「特にないだと? 強がるなよ。このままじゃお前は死ぬんだぞ。みっともなく命乞いしてみたらどうだ? 冴羽!」

「命乞いねぇ」

「そうだ。せっかくだからこの俺にひざまずいて許しを乞え。見てみたくなった」

「えー……めんどくさ。なんでおれが。んなことしたら服が汚れるだろ」

 ほらと獠は路面を顎でしゃくって見せた。今二人が対峙する路地裏は薄暗く、打ち捨てられた空き缶やゴミが散乱している。そんなところでひざまずくなんてまっぴらごめんだ、獠はそう言っているのだ。

「ほう。拒否するか。ずいぶんと余裕だな。従わなければお前の大事な大事な相棒が死ぬかもしれんぞ?」

「香?」

 ぴくりと獠の眉が跳ね上がる。やる気なさげな獠が初めて反応を示したことに噂どおりだと男はほくそ笑む。

「そう、槇村香だ。死なせたくないだろう? だったらさっさと俺にひざまずいて無様な姿を晒すんだな」

 裏社会を統べる者は冴羽獠、ただ一人。これはもう常識であり揺るぎないものとなっている。けれどその強者にも弱点があって、彼は相棒である槇村香をいたく溺愛しているとこの界隈では広く知れ渡っているのだ。

 そうなると王者として君臨したい輩に弱点が狙われるのは当然。獠は香を守るため、本人には察知されることなくひっそりと裏で暗躍してきた。

 パイソンで脅し、手痛い一撃を加え、殺し屋の顔で威圧する。大抵は香には近づくなとの警告だけで済むが、中には獠の気まぐれで命を落とした者もいる。

 全ては獠の気分次第なのだが、哀れなことにこの男は知らない。今日の獠はすこぶる機嫌が悪いことに。

 迂闊にも香の名を出したことで散々溜まった不機嫌メーターが吹っ切れてしまったのだ。

「……くくっ」

 優越感に浸る男の前で獠の口端が持ち上がる。おかしくて仕方がないと言うように俯き肩を震わせて獠は笑った。

「な、何がおかしい!?」

「だってさぁ、命乞いなんざお前がする立場だろ?」

「なに!?」

「そうだろ。なぁ?」

 そう言って、俯いていた顔がゆっくりと持ち上がる。長い前髪がはらりと揺れ、隠れていた獠の瞳が現れる。それを見た瞬間、男は言葉を失った。

「ひっ……!」

 ──死ぬ。殺される。殺されてしまう。

 咄嗟にそう直感した。戦慄した男を見据えるのは黒々とした双眸。それは殺し屋としての闇を孕み、ひどく冷たい。底冷えすら感じさせる獠の眼差しは男の身も心もいとも容易く金縛りにする。

「おい。なんか言えよ。さっきまでの威勢はどうした?」

「っ……!」

「どうした。ビビっちまったのか?」

 一瞥しただけで恐怖へと叩き込む。これが裏社会ナンバーワンなのかと男が震えた瞬間、獠が動いた。

 獠へと突き付けていた腕を掴み、捻ると素早く銃を奪う。そうして脚で蹴りつければ、男はバランスを崩し尻餅をついた。すぐさま銃を突き付けぴたりと眉間を狙う。獠が引き金を引けば男に死が訪れる。確実に。

「あ、う……」

「さっき言ったろ? お前が命乞いする立場だって」

「っ……」

「それなのにおれを殺るの? 出来ないだろばーか。お前じゃ力不足だっつーの」

 薄く笑って銃口を男の額へと押し付ける。脅すようにぐりぐりと力を込めれば、脂汗だらけの額に銃口が擦れて赤い引っ掻き傷が浮き上がる。傍目にも男の震えが見て取れた。

「いいか、よく聞け。香に手を出すな」

 死への恐怖に言葉も出せず、男がこくこくと頷く。

「金輪際この地に立ち入るな。つーかこの国から退去しろ」

「は、はぃい……!」

「物分かりが良くて結構。良く出来ました」

 優等生を誉めるような口振りで獠は人懐っこい笑みを浮かべた。けれど、良かった、殺されずに済むと男が胸を撫で下ろした途端、芽生えた希望もすぐに消え去ってしまう。

「なーんて言いたいところだが、生憎と機嫌が悪くてな。めんどくせーからこのまま消しちまうか」

「!?」

 安堵から絶望へと突き落とされた男は怯えに目を見開いている。あぁその顔だ、たまらない。命を奪えば苛立ちも少しはすっきりするだろうか。昏い笑みを浮かべた獠がぐっと引き金に力を込めた瞬間、

「こらぁああ! りょおおおぉお!」

 突然、どん! と振り下ろされたハンマーに獠は呆気なく潰された。

 * * *

 気絶していたのは何秒だったのか、それとも何分だったのか。獠が目を覚ますと男の姿はとっくの昔に消えていた。

「……あの野郎、逃げやがったな」

 どうやらあの不埒者はハンマー制裁を食らっている隙に逃げ出したらしい。

 仕留め損ねたことが更なる苛立ちを生む。素早く身を起こし後を追跡しようとした首根っこを引っ付かんで、般若顔の香がにじり寄った。

「か、香」

「あんたねぇ! どこほっつき歩いてたのよ、急に消えたりして! 散々探し回ったんだからね!」

 怒り心頭で仁王立ちする香は正直怖い。気圧された獠はじりじりと後ずさった。

「だ、だってぇ、こっちこーいって誘われちゃったんだもん」

「まぁたもっこり美女もっこり美女って! いい加減にしろ!」

「いや、美女じゃなくてだな、おっさんなんだけど……」

「うるっさい! つべこべ言うな! 時間が惜しいの! 依頼があったらどーすんの。早く行くわよ!」

「……そんなに焦らなくても依頼なんざねーよ」

「なんか言った!?」

「いえ、何も」

 地獄の鬼もはだしで逃げ出しそうな顔で香が睨む。既に主導権は香が握っている。勝てるはずがない。獠は渋々折れた。

「あーもう、わぁったよ。ちょっと用事あるから先に行ってろ」

「そこで待ってる。一分以内に来ないとハンマーだからね!」

「はいはい。おーこわ……」

 ひらひらと手を振って香を追いやると、獠は素早く周囲を窺った。ぽつぽつと数人の通行人らしき気配はあるが不穏なものはない。どうやらさっきの男はこの近辺にはいないようだ。少なくとも自分や香に危険はないだろう。

 追うのを諦め、あーめんどくさとぶつぶつ言いながら男の放り出した銃を拾いジャケットへと忍ばせていると、

「りょお! あんた何やってんのよ! 早く!」

 人の行き交う雑踏で人目も気にせず香が叫んでいる。薄暗い路地裏に慣れた獠の目が、香の姿を認めて眩しそうに細まる。朝陽を浴びて佇む香はきらきらと目映い光を放ち、生の象徴として獠の目に映った。

「……おれを殺れるのはあいつだけなんだよな」

 つい今しがたならず者に命を狙われたばかりなのに、不思議と殺される気がしないのは殺されない自信があるからなのだろうか。

 いや違う、香がいるからだ。

 共に生きると決めた。だから死なない。死ねない。誰にも殺されるつもりはない。けれどもし殺されるのならば、愛すべきパートナーの手で。

 

「獠ったら!」

 痺れを切らした香が腰に手を当て苛々と叫ぶ。短気な香のことだ、もうそろそろハンマーを繰り出すだろう。甘んじて受け止めるがそれでも痛いのは勘弁だ。うるせーなぁと悪態をついて獠はようやく歩き出した。

「りょお!」

 隣に立つまであと数歩のところで香が小さく叫んだ。

「あん?」

「……えーと、その、帰りにキャッツで朝御飯食べよう? 好きなもの頼んでいいから」

 どうやら朝食抜きで連れ出したことを気にかけているらしい。さっきまでの怒りはどこに消えたのか、香は恥ずかしそうに頬を染め、ぷいとそっぽを向いている。その姿を目にした途端、獠の苛立ちが綺麗さっぱりと消え、代わりに香に対しての愛しさが込み上げる。

「……じゃあ、キャッツにある物ぜーんぶ食い尽くしてやる」

 にやりと笑って歩む先は、薄暗い路地裏から香のいる光射す雑踏へ。言葉を受けて香がぎょっと目を剥いた。

「全部ぅ!? バカバカ! あんたの底無しの胃袋じゃキャッツが営業出来ないわよ! 控えなさいよ!」

「知るか」

 ふふんと鼻で笑って香の隣に並び立つ。そうして相棒を見つめる瞳には慈愛だけが浮かぶ。凍てつくような闇はもうなかった。