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Sotto Voce

アーティスト

2018.10.01 06:45

監督は、ミシェル・アザナヴィシウス(Michel Hazanavicius)。
知らなーい、って感じだったのですが、観てみました。

図書館でDVDがあって、知らない監督の映画を見てみようと思って、とりあえず「受賞」という項目があったのでそこに「カンヌ」と入れて検索して、出てきたのがこの映画でした。私としては、やっぱり「アカデミー賞」より「カンヌ」かな。

映画は最近ほとんど見ないのですが、最近のものをどう引っ張り出してくるかは楽ではありませんが、少しずつ新しい人たちの中からいい監督を探したいです。これは2011年の作品、私にとっては最近の映画に入ります。

ディスクを入れるときに気が付いたのですが、白黒映画、しかもほぼ無声映画なのです。

そう聞いただけで、ちょっと気持ちが遠のくかもしれないのですが、観た後の感想は、「よかった。」です。佳作っていうか、丁寧に作っている小品で、なぜこの映画があるかがわかる。何も新しいことはないし、お話もありふれ過ぎたお話で、なんでもないといえば本当に何でもない。最初の部分を見てだいたい最後までのお話がわかってしまうくらいわかりやすいお話です。
ではなにが良いかというと、そのシンプルなところ、そして表現が豊かなこと、画像が美しいこと。
「豊か」というのはいっぱいあることではない、そして、「美しい」というのは彩りがあるということではないということを改めて教えてくれる映画です。そのためにこの映画は、無声であり、白黒なのだと、納得したのでした。

セリフがないとこんなにもまなざしやしぐさがいろいろ語るのかと思います。そして、気が付いたのは、セリフがないと、見ている私たちはその画面に集中して、その美しさを十二分に堪能できるのです。外国映画を観ることが多いので、字幕を読んでいると画像を満喫できていないというのは前から感じていましたが、音で入ってくるとしても入ってこないほうが(つまり無声のほうが)スクリーンに集中できるのだということが今回わかりました。

このシーンはとっても素敵だった。パントマイムのような物語がふわっと魔法のように出てくるんですよね。この女優ペピーが、ほっそりしていて可愛い。こういう人いますね。するっとしている感じの人。

私が一番好きなシーンは、主人公の落ちぶれそうになっている大スターのジョージ・ヴァレンティンと、エキストラだったけどスターの座に向って上がっていきそうな女優ペピーが、映画会社の階段で再会するところ。今気が付いたけど、ヴァレンティンは階段を下りてきて、駆けだしのペピーは上がってくるのですね。そこで2人が立ち止って話している間、その階段をカメラは横から撮っていて、人が上から下へ、下から上へと行き来している。その流れと、階段の段々と手すりのライン、そして白黒の濃淡とが美しいのです。残念ながらその写真はインターネットにはありませんでした。

そういえば、お家の中のシーンも階段が多かったような気がします。自分で階段上ったり下りたりするのはもちろん好きではありませんが、階段を横から見た感じは私好きです。クレーの絵にもよくありますね。この監督も、階段好きかな、もしかして。

そして、名脇役はこの犬なんです。ま、誰が見てもそういう感想になると思うのですが、いいです。

最後のところで、この犬ががっつり笑いをとって、頂点に達しますね。


それから、基本、無声映画なのですが、音が使われます。それがまた効果的に使われていると思います。(ヴェンダースの「ベルリン天使の詩」で色が出てきたときのことをちょっと思い出しました。)でもそれも、そんなに大げさでなく、ほんとわかりやすい感じで入っているのが好感が持てます。一応フランス映画みたいなのですが、この監督はユダヤ系リトアニア人らしく、普通のフランス的な押しとはちょっと違った空気感があります。

「古き良き時代」を描いたというのとは別物と私は思いました。あまりにもいろいろなものが過剰になっている現在の中で、光る一品というか、昔はよかったというのではなく、一つの在り方として、今も未来も認識されるべき価値観だと思いました。