小説 No Exist Man 2 (影の存在) 第一章 再来 8
小説 No Exist Man 2 (影の存在)
第一章 再来 8
「秘密がばれたという話をしてすぐにごまかすのは何かあるのか」
大沢三郎は、松原の女の話を遮った。
「なんだよ、大沢先生。お楽しみはお預けかい」
「ああ、女が来るまではもう少し時間がかかる」
「その辺の淫売とは違うだろうね」
「まさか」
大沢は鼻で笑った。誰が来るか知っている佐藤歩美もにっこりとしている。
「それで秘密が漏れた話だが」
大沢はそういって松原の方に話を向けた。
「ああ、中国は我々のどちらかであろうと思っている。実際に、誰が流したのかはよくわからない。俺の方でいえば野村秋介やそのほかの若いのが疑われる。大沢先生の方は、誰か議員とか秘書とか、そういったところが疑われているということだ。もちろん俺がだいたいい女も疑われている可能性がある」
「青山優子か」
「あれはいい女だ。また是非お願いしたいね」
「そんなことはいい」
最近、そういえば青山優子が自分の命令を聞かなくなっている。しかし、青山を疑うようなところは何もない。実際に犯行の日も大沢の命令で京都市内の立憲新生党の支持者の会に出させていた。その時も青山に命令したのは大沢自身である。青山が疑わしいといは思えない。
そのうえ。裏切る可能性のあった岩田智也は、計画の前に死んでいる。では自分の方は疑われていても何の罪もない。いや、大沢自身は疑われていないので陳文敏は奉天苑に自分だけを呼んだのに違いない。つまり、疑われているのは松原か、大津伊佐治の方であろう。
大沢はそのように考えるようにした。
「それで疑われていたらどうなる」
「要するに、我々とは全く異なるラインで物事を進めるということになる。」
松原はまた新しい煙草に火をつけた。
「違うラインとは」
「中国は中国だけで日本政府を叩くということを考えるのだろう。それはこの前のような工作をするのかテロなのか、あるいは戦争をまともに仕掛けるのかはわからない。その時に、我々も見捨てるということになれば、我々とは共同歩調を取らないという事だろう」
「では日本政府と一緒に我々も滅びるのか」
「いや、必ずしもそうではない。こちらが大きな勢力になって、中国とは別にこちらの方が大きな勢力となって日本を支配できれば・・・・・・。」
松原は、いつもにやけたような顔でそのように言った。そして、一つの話の区切りがついたかのように、まだ半ばまで残っていた煙草を灰皿に押し付けた。
そのまましばらく沈黙が続いた。
「先生、遅くなりました」
三田有希子という大沢チルドレンの議員である。青山優子とは異なるタイプであるが、やはり美人議員として話題になった女性だ。しかし、少し神経質そうなところがあるが、しかし、大沢三郎の「御寵愛」が欲しくて、何でも言うことを聞く状態にあった。実際にそれほど優秀なタイプではない。大沢が何か言うと、その後ろから「そうだ、そうだ」というようなことをいうことがある程度だ。そのために前回の作戦の時は三田有希子は使わなかった。この女を使わなかったことが、そのまま秘密の保持につながったと大沢自身はその方に思っていた。
今回は、青山優子の時のように騙し打ちのような形で松原に貢いだが、三田の場合は先に話をしてあった。青山の時のようにその後何かぎくしゃくすることのないようにしたのだ。三宅は初めは意外そうな顔をしたが、それでも大沢の頼みであるといえば、当然のように快諾していた。
「おお、もう一人のいい女先生じゃないか」
「大沢先生、こちらが松原さんですか」
三田は、大沢の命令がなければ全く松原などは意に介さないような形にっしていた。
「ああ、今日は松原先生に失礼の内容に、有希子、頼むぞ」
「先生に恥はかかせません」
三田は、そういうと、ブラウスの一番上のボタンをはずした。そして荷物を置くと、大沢の隣に座った。女性特有の生理的な何かが松原を遠ざけていた。一番上のボタンを外したのは、大沢に対して気を使っているのであって、松原に艶っぽく見せるためではない。
「離れて座ったか。まあ、いいか、おねえちゃん」
「あ、はい」
生理的に嫌がっていても、大沢に頼まれ因果を含まされているために、ある程度愛想よく話をしていた。
「じゃあ、松原さん、どうするのかな」
「このねえちゃんと・・・・・・。そっちじゃないか。要するに日本人は日本人で中国人の力を使わずに自分たちで今の政府を妥当しなきゃならない。要するにテロを我々が行うという事でしょう」
「我々がテロを」
大沢は眉根を寄せた。
それ以上に驚いたのは、三田有希子だ。いきなりテロとか政府の打倒の話をしている。もちろん民主主義や選挙で今の政府を打倒するというような話はよく演説などで大沢が話していた内容だ。しかし、まさかテロということになれば話は別である。まさか自分の尊敬する、いや崇拝するといってよい大沢三郎が、まさかテロを起こすような話をしているとは全く思わなかった。
三田有希子は、目の前に出されたビールを一気に飲み干した。佐藤歩美はこのビールの中に、こののちのことがあるので媚薬を入れていたが、三田有希子は全くそれに気づくような余裕はなかった。
「あら、飲みっぷりがよいわね」
「歩美ママ、ありがとう。もう一杯くれる」
「いいわよ。それとも焼酎か何かにする」
「ああ、甘いサワーか何かにお願いします」
佐藤歩美は、後ろを向いてサワーを作ると、その中にも媚薬を入れた。大沢がここで誰かに女を抱かせるときは、佐藤歩美にこのように薬を混ぜるように頼んでいた。青山優子の時は睡眠薬を入れさせた。
「ママ、ありがとう」
「いいえ」
簡単なおつまみとともに媚薬入りのサワーを出した。
「松原さん、テロというのはなかなか難しい話だな」
「何言ってんだよ大沢先生。テロリストにテロが難しいとか言っていては話にならんだろう」
「ま、松原先生は、テロリストなんですか」
三田有希子は、驚いたように聞いた。
「知らねえのか、ねえちゃん」
佐藤歩美は、三田有希子に向かってゆっくりとうなづいた。
「まあ、誇って言えるような話ではないか。しかし、テロリストといわれていることは確かだ。そして、世界を平和にするために今の政権を打倒しなきゃならないんだ。それは今まで中国が手を貸してくれていたが、今後は我々だけでやらなければならない。」
「で、どうする」
大沢は聞いた。その横では三田有希子は少し大沢にも距離を置くように、気づかれないように少し椅子を離した。
「どうしたらよい」
「軍を持つ」
何事もないように松原は言い放った。
「軍」
「そうだ。今回の京都の件でわかるように、政府は自衛隊も投入できるし、警察もそれなりの武装集団だ。こちらの素人軍が何をやっても対抗できるようなものではない。要するに、こちらにしっかりとした武装集団を作り、イスラムのテロリストのように軍隊組織にしなければならないであろう。そのうえで、自衛隊を抑え込んだのちにクーデターを行わなければならない。」
松原は、そういうと立ち上がって三田の手を取った。
「あ、ちょっと」
三田は媚薬の入ったサワーを一気に飲み干した。自分では気が付いていないが、媚薬の影響から体の内側から熱を持っているような感じだ。そして、松原につかまれたてから、何か体の中心に電気が走ったような気がした。
「大沢先生、お先に」
松原はそういうと、奥のの小部屋に三田有希子を連れ込んだ。