Ameba Ownd

アプリで簡単、無料ホームページ作成

詩人・作家 神泉 薫(Kaoru Shinsen)のブログ ~言の華~

「幸福」と「貧乏」、どちらが好き? 藤村の童話・2

2018.10.13 12:00

 

文豪、島崎藤村の童話、みなさんは、お読みになったことはあるでしょうか。


藤村は、小説や詩が広く読まれていますが、実は、童話もたくさん手がけています。


童話は、命あるものすべてが、対等にことばを持ちます。


セミ、みみず、あり、カエル、はっぱや花、空や風たちも。


人間だけがことばを持つのではなく、話し合えることが最大の魅力だと思います。


藤村の童話には、素朴でやさしいお話が多いのですが、ちょっと考えさせられる、哲学的なお話もあります。


「幸福(しあわせ)」というお話は、貧しいなりをした「幸福」が、「貧乏」と嘘をついて、人々を訪問し、相手のこころを試すのです。


貧しい姿という外側だけではなく、その奥もじっと見つめること。


子どもよりも、大人である私たちの方が固定観念や見た目にとらわれて、真実を見落としてしまうこと、あるかもしれませんね。


調布FMラジオ「神泉薫のことばの扉」放送分アーカイブにて、藤村の童話、ぜひ聴いてみてください。


また、ラジオでは、代表作の詩「初恋」も、朗読しています。


日本の抒情詩の土台を築いた、詩壇の父と呼ばれた藤村の、金字塔的な詩です。



初恋


まだあげ初(そ)めし前髪(まへがみ)の

林檎(りんご)のもとに見えしとき

前にさしたる花櫛(はなぐし)の

花ある君と思ひけり

やさしく白き手をのべて

林檎をわれにあたへしは

薄紅(うすくれなゐ)の秋の実(み)に

人こひ初(そ)めしはじめなり

わがこゝろなきためいきの

その髪の毛にかゝるとき

たのしき恋の盃(さかづき)を

君が情(なさけ)に酌(く)みしかな

林檎畑の樹(こ)の下に

おのづからなる細道(ほそみち)は

誰(た)が踏みそめしかたみぞと

問ひたまふこそこひしけれ


初々しい感情の発露が素晴らしいですね。


日本語のたおやかさが伝わってきます。






【神泉薫HP】 【神泉薫著作】 【お問い合わせ】