五感が磨かれる「子どもは地獄耳」(『土の匂いの子抜粋』)
2023.11.30 11:05
「えっ? 聞いてたの?」
子どもたちが遊ぶかたわらでおしゃべりに花を咲かせる母たちは、子どもの地獄耳にいつも驚く。だが、考えてみれば、生後たった1年で複雑な言語の大半を理解してしまう超能力者の彼らが、おとなよりはるかに敏感な聴力をもっているのは当たり前のこと。
全身耳であるような子どもが谷戸に行けば、虫の鳴き声、飛ぶ虫の羽音、梢のきしめく音、風が通り抜ける葉ずれの音などを、いちいち言葉に表さなくても感じ取っている。ウグイスの鳴き声を何回も聞けば、姿はわからなくても、谷戸の春と結びついて体にしみ込む。
カエルを捕まえて見せてから、「田んぼでカエルが鳴いているね」と語りかけることもある。「誰の声?」「何の音?」。その正体の固有名詞はわからなくても識別し、自然の音の心地よさが浸透していく。聞き分ける耳が育つ。
生まれたばかりの赤ん坊でも、直接語りかける母の声には耳を傾けるが、機械音には反応を示さない。感情や状況が伝わる音をたくさん届けたい。