映画『Maelstrom』でユニバーサルな社会とは?を考える②サンセバスチャン編
横浜シネマリンで8日まで公開中の映画『Maelstrom マエルストロム』(2022)は、交通事故で脊髄損傷し車椅子利用者となった映画作家・アーティストの山岡瑞子さんのセルフ・ドキュメンタリーです。
公開に合わせて、横浜・高架下スタジオSite-Aギャラリーでは、「Artworks from the Documentary film “Maelstrom” by MIZUKO YAMAOKA 〜ドキュメンタリー映画『Maelstrom マエルストロム』の山岡瑞子のアート・ワークス〜」と題した個展も10日まで開催されています。
山岡さんは行動します。どこまでも行きます。自分が街にいるのは”特別ではない”ということを示すために。
その思いを聞いて、スペイン・サンセバスチャン国際映画祭の風景が浮かびました。今や美食の街、いや、サッカー久保建英が所属するレアル・ソシエダの本拠地として有名ですが、同映画祭は2023年で71回を迎えた歴史ある市民のお祭りです。
メーン会場は1839席あるクルーサール国際会議場の大ホール。そこにどの上映回でも、車椅子利用者や杖をついた高齢者などいろんな人が鑑賞にやってくるのです。
ここに限ったワケではなく、特に夕暮れ時に街や海岸沿いを歩けば、車椅子利用者やベビーカーを押したご家族などお散歩をする人たちで大賑わい。
どの公園にも、子どもが転んでも怪我しないように、下にゴム製のパットが敷いてあります。なので子どもたちも伸び伸び走り回ってます。見ているこちらもほっこり。
あらゆる人が街に出て、楽しむ。
日本ではなかなか見られぬ光景に、何が要因なのか自分なりに分析しました。
まず1つ。公共交通の利便性の高さです。
サンセバスチャンではバスが主な交通手段となります。その車両の3分の1か2分の1は高齢者やハンディキャップを持った人用で、車椅子やベビーカー用のスペースもたっぷり。
ほとんどのバスは自動リフト付なので、車椅子利用者も介護者なしでもスイスイ乗車できます。
これなら皆、気兼ねなく街に繰り出せますよね。
もう一つ、ホテルや飲食店、公共ホールのユニバーサル対応が進んでいることです。
例えば前述したクルーサール国際会議場の館内案内表記には、点字表記ありです。
さらにトイレの洗面台やテーブルは、車椅子利用者が使用しやすいよう空間が空けられています。
写真は別のホテルのものですが、テーブルの足が真ん中1本タイプを使用している飲食店も多いです。
近年、都心ではホール建築ラッシュが続いていますが、この時代においてもユニバーサルな視点が欠けていて、がっかりすることが多々(歌舞伎町の新しい劇場とか!)。
ちなみにクルーサル国際会議場の開館は1999年です。社会福祉に対する教育・政治・環境の差かなと考えてしまいます。
一度、市場前で高齢のご婦人が転んだ時、周囲にいた老若男女10人ぐらいがわーっと手助けに行ったのを目にしたことがあります。大人が当たり前のようにこういう行動を取れば、子どももきっと真似しますよね。
驚いたのは、映画祭指定のホテルアマラプラザの対応です。
映画祭側が同ホテルを予約してくれるので、もう10回以上宿泊しているのですが、ユニバーサルな視点で見たら発見だらけ。
車椅子対応はもちろん、視覚障がい者向けにエレベーターは音声付き、部屋のアメニティ1つ1つには点字がついていたのです。
国内外結構な数のホテルに宿泊しましたが、これは初めて。気づいた時は、感動で震えたほどです。
同ホテルチェーンだけの対応かもしれませんが、こんな宿がある街なら安心して旅が楽しめそうです。
実際、サンセバスチャンは人口約18万人の小さな街ですが、2023年の映画祭来場者は15万8000人です。
今、サンセバスチャンは日本からの観光ツアーや、美食での町おこしの成功例として市町村からの視察も多いようです。
もちろんバル巡りで楽しむも良し!
それと同時に、つい数十年前まで迫害にあったりテロの脅威に怯えていたこの街の人々が、どうやって平和で人に優しい街を築き上げたのか? そこに少しでも目を向けて欲しいなと思います。