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【事例編】地中熱HPが導入される横浜市新市庁舎

2018.10.05 02:21

 

◆市庁舎での積極的な地中熱利用進める横浜市を取材


地中熱は比較的採用しやすい技術だと思います――。2020年6月の供用開始に向けて建設工事が進む横浜市新市庁舎では、地中熱利用ヒートポンプシステムも自然エネルギーの1つとして採用されました。横浜市の新たなシンボルとなると同時に、首都圏最大級といわれる地中熱利用ヒートポンプシステムにも大きな関心が集まりそうです。横浜市新市庁舎整備係長の飯塚泰明氏、金田聖勝氏を訪ね、新市庁舎に導入される地中熱設備等について取材しました。(エコビジネスライター・名古屋悟)

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◆「環境に最大限配慮した低炭素型の市庁舎」を基本理念の1つに


 横浜市の市庁舎機能は現在、関内地区約20カ所に点在していますが、現市庁舎の老朽化などの課題を踏まえ、現在、機能を集約した新市庁舎の建設が進められています。新庁舎が完成すると市職員6,000人が一カ所に集約され業務のさらなる効率化が期待されるほか、高さ155mの新市庁舎は横浜を代表する「みなとみらい21ゾーン」や「関内ゾーン」、「桜木町・野毛ゾーン」、「北仲通北・新港ゾーン」を結ぶエリアに位置することからエリア間行き来の活性化が期待される結節点としての機能も期待されています。


◆CASBEE横浜最高ランクS、BELS最高ランクファイブスター取得へ


 その新市庁舎建設に当たっては、『環境に最大限配慮した低炭素型の市庁舎』を基本理念の1つとし、自然エネルギーや再生可能資源の有効利用等を整備基本方針に掲げ、設計・施工一括発注方式で発注。地中熱利用等を盛り込む竹中・西松建設共同企業体の提案が採択されました。

 提案では環境系の技術が数多く盛り込まれ、輻射効果により空調するシステムや各種センサーを使う照明制御などにより建物のエネルギー消費を抑制しながら快適な執務環境を作るとしています。また、様々な自然エネルギーの活用も行うとし、地中熱を利用した空調のほか、下水再生水の活用、自然換気、太陽光発電なども組み合わせる計画となっています。さらに、新市庁舎整備に合わせ地域冷暖房の事業が進められるなど、こうした取り組みにより、「新市庁舎はCASBEE横浜(建築環境総合性能評価システム)最高ランクのSランクを取得し、BELS(建築物省エネルギー性能表示制度)でも最高ランクのファイブスター取得を目指すこととしています」としています。


◆自然エネの1つで地中熱利用…新市庁舎を支える場所打ち杭66本を熱交換で利用


 自然エネルギー等を有効活用する基本方針の下、その1つとして導入されるのが地中熱利用ヒートポンプシステム。熱交換は、杭方式によるクローズドループを採用。場所打ち杭118本の基礎杭のうち66本に採熱管(杭1本あたり10対の採熱管)を取り付けています。採熱管の総本数は1,320本、総延長約3万mにもなり、地中熱交換量は400kWと首都圏最大規模の設備となる予定です。

 この地中熱は、屋根付き広場(三層吹き抜けの構造、延床面積約1,200㎡)の床輻射冷暖房等の熱源として利用されます。屋根付き広場は、文化芸術事業やパブリックビューイング等の様々な活用、イベントを催すスペースで、完成すれば市民が集う場所の快適な空間を地中熱が下支えしていくことになります。「地中熱利用等の『見える化』も進めたいと思っています」と語り、市民への啓発も進める考えとしており、地中熱普及促進の啓発活動の面でも注目です。


◆「泉区総合庁舎」、「金沢区総合庁舎」、「南区総合庁舎」で地中熱、「港南区総合庁舎」で地下鉄トンネル湧水熱をそれぞれ利用


 新市庁舎に地中熱を導入する横浜市では既に地中熱利用への様々な取り組みが進められています。公共建築物の更なる省エネルギー化のため、2012年度から「泉区総合庁舎」で「地中熱」を利用する空調設備の実証試験を行ったのを皮切りに、「金沢区総合庁舎」(2016年2月オープン)、「南区総合庁舎」(2016年2月オープン)において新庁舎建設時に地中熱利用ヒートポンプシステム、「港南区総合庁舎」(2017年3月オープン)において地下鉄トンネル湧水熱利用ヒートポンプシステムを導入するなど積極的な地中熱の利用が目を引きます。


◆場所、季節、天候問わず利用でき、その他自然熱に比べ関係方面調整なく採用しやすい技術


 行政施設として積極的に地中熱を採用していることについて尋ねてみると、「新市庁舎については予算を定めたうえで、整備基本方針にある安全性の確保、環境、デザイン等について技術提案を受けました。市の施策に基づき環境について評価の比重を高くしたこともあり、大規模な地中熱利用を含めた高い環境技術の提案をいただくことができました」とのこと。しかし、すでに運用を開始している南区総合庁舎等においてはLCC(ライフサイクルコスト)を比較するとコストメリットが出しにくいという側面があるようには思います」と課題も指摘します。その一方で、「地中熱はその敷地内にある熱資源を利用するものですので、場所や季節、天候を問わずに利用できる点や河川水等の熱利用に比べると関係方面の調整等がなく、とても採用しやすい技術だと思います」と地中熱の良さを指摘しました。


◆「今後も選択肢の一つとして大きな役割を果たしていくのではないかと思っています」…横浜市担当者


 今後についても「今後もその地域にマッチしたシステムを採用していく事となると思いますが、地中熱は当市でもすでに導入例もあり、今後も選択肢の一つとして大きな役割を果たしていくのではないかと思っています」としており、さらなる展開が期待できそうです。

 供用開始は2020年6月。さらなる低炭素化社会の構築に向け、地中熱利用のメリットを広く社会に広め、社会におけるさらなる認知度の向上を果たす役割にも期待したいと思います。


【記事中の図、写真は横浜市様提供のものです。ありがとうございます】


※横浜市新市庁舎建設情報HP: http://www.city.yokohama.lg.jp/somu/org/kanri/newtyosya/kensetuinfo/

kensetsu-info.html