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丹田呼吸と健康法

弓と禅(4)おしまい

2018.10.07 11:47

<暗中の矢>

 オリゲル氏の弓はなかなか的に当たらなかった様です。 師範は射るための“精神現在”の状態をいいます。「精神的覚醒の最高の緊張を解き放つためにはあなた方は礼法を今までとは違った仕方で行じなくてはなりません。上手な舞手が舞うように。こうなさればあなたがたの四肢の運動は、正しい呼吸が行われるあの中心から湧き出てきます。するとあなた方は礼法を暗記したもののように繰り広げるではなくて、あたかもその瞬間の霊感によって創造するかのようになり、かくて舞と舞手とが一体になるのです。すなわちあなた方は礼法を神楽舞のように行ずることによって、あなたがたの精神的覚醒が最高の力を得るようになるのです。」そして、的のことを関知せずに見ないように見て射るように指導したのです。 かくしてオリゲル氏は何週間か納得のいかない射を続けていましたが、どうにも我慢ができず師範に抗議の言葉となって現れました。「先生は何十年となく稽古を積まれたのですから、あなたが弓を引かれる時には思わず知らず、ちょうど夢遊病者が正しい道を歩くような正確さで弓と矢の見当をつけられるのでしょう。だから意識的に狙うことなしに的にあてる、というよりはむしろ否応なしに当たらざるを得ないという結果になるのだとは考えられませんか。」「それでは、先生は目隠しをしても当てられるに違いないでしょうね」と。師範は「今晩おいでなさい」と言いました。

 その日の夜、師範はオリゲル氏に指示に道場から50メートル離れたアズチの前に細い線香を立たせて、アズチの前の電灯を切らせました。道場は電灯がついていますが、50メートル先のアズチは輪郭すらはっきりとは分からない状態でした。肉眼で見ることのできない的に向かって師範は2本の矢を放ちました。音で的に中ったことが分かりました。オリゲル氏がアズチに近づいて見て呆然としました。1本目の矢は中央の黒点に中り、2本目の矢は1本目の矢の後部を切り裂いて黒点に中っていました。 師範は言います「・・この結果は“私”に帰せられるものではありません。“それ”が射たのです。そして中てたのです。」 オリゲル氏は師範の矢は暗中の的だけでなく、オリゲル氏の心をも射とめたと記述しています。 その後、苦労の末にオリゲル氏は善い射ができるようになりました。そして“それ”の正体を論じるに至ります。師範はその言を聞き、“それ”の正体を会得したことを告げます。


 <段級審査>

 入門以来5年以上の月日を経て、師範は段級審査を受けるように申し伝えました。審査では、単なる弓の技術ではなく、見物人に惑わされない精神状態が高く評価されることを説明しました。 師範は、審査のための特別なけいこはせず、日常生活の中での所作を正確に、とりわけ呼吸法を完全に遂行することを指導されたのです。 審査は全くもって無事に終わり、オリゲル氏は段位5段の免許状を受けたのです。

 ここでも呼吸法に関する記述がでてきましした。審査において呼吸法は大きな役割を果たした模様です。見物人のいる舞台で落ち着いた精神状態で審査を受けることにも、呼吸法の体得が有効であることを垣間見ることができます。

 <雑感>

 座禅堂で説法と座禅を行い始めて15年以上の歳月がすぎますが、今を生きる生き方に苦心し呼吸法に活路を求めてフォーカスし始めて3年が過ぎます。この書を読んで、呼吸法の玄妙なる力や禅の説法で無数にある理解不能であった問答のいくつかに解を与えて生き方のヒントを与えてくれた書でした。すでに20回は通読していますが、読むほどに新しい気づきが生まれてくる、私にとってとても大切な一冊となりました。