いま北京ではスターリン式の粛正の嵐が吹き荒れている
消息不明となっていた秦剛前外相が、すでに7月末の時点で、北京の軍病院で自殺あるいは拷問によって死亡したという情報が入ってきた。米国の政治専門メディア「ポリティコ」
(POLITICO)が伝えた情報を、フランスの国際放送「ラジオ・フランス・アンテルナショナール」や台湾の「中国時報」が引用して報道している。
それによると、秦剛前外相は、ことし6月25日、ベトナムやスリランカの外相、それにロシアのアンドレイ・ルデンコ外務次官と会談したのを最後に、その後の消息は伝えられず、姿が消えた。中国の複数の高官筋によると、ロシアのルデンコ外務次官のこの時の北京訪問は、習近平に対してある情報を伝えることが真の任務だったという。その情報とは、秦剛外相と何人かの人民解放軍高級幹部が西側の情報機関によって利用されているという内容だった。
中国の核兵器配備計画は近年、大規模に増強されているが、高官筋によると、ロシアのルデンコ外務次官が習近平に伝えた情報の中には、秦剛外相とロケット軍の高級幹部の親族を名指しして、中国の核兵器に関する機密情報を西側の情報機関に漏らすのを助けたという内容が含まれていたという。さらにその高官筋のうち2人が、秦剛外相はすでに7月末の時点で、北京の中国最高指導者を治療する軍の病院(「301病院」と見られる)で、自殺あるいは拷問で死亡したと話しているという。
驚くようなスピード出世で外相に抜擢された秦剛氏だが、外相になる前の駐米大使時代、香港のフェニックスTV(鳳凰衛視)の美人キャスター傅暁田氏と浮名を流し、2人の間には米国国籍を持つ男児がいると伝えられている。その傅暁田氏は英国ケンブリッジ大学に留学し、そのころ駐英中国大使館に勤務していた秦剛氏と知り合ったと言われる。ポリティコによると、ケンブリッジ大学は英国の情報機関が伝統的に情報源を見つけるリクルートの場所として知られているとし、彼女もこのときリクルートされたことを匂わせている。
ポリティコによると、ケンブリッジのチャーチル学院の庭には、2016年に彼女が寄贈し、彼女の名前を冠した庭園があるという。それだけの庭園を造るには25万ポンド(4500万円)が必要だが、ジャーナリストという身分の彼女に、それだけの大金を動かせる能力があることにポリティコは疑問を呈している。
その傅暁田氏は、秦剛氏が失踪する前の4月、中国政府がチャーターしたとみられる自家用飛行機に乗って北京に帰ったとされるが、その後の消息は途絶え、同じく行方不明になっている。こうした事情や経緯から、秦剛前外相は傅暁田という「西側情報機関のエージェント」と親密となり、男女関係を結ぶことで、中国の内部情報を漏らしたという容疑をかけられ、その取調べの過程で自殺したか、あるいは拷問によって殺害されたと見られている。
ところで、秦剛外相の失踪と時を同じくしてロケット軍最高司令官の李玉超とその副官の劉廣斌、さらにその前の副官だった張振中が失踪している。中国の公式メディアの報道によると、ロケット軍の現役や前任の高級幹部が何人も拘束され、そのうちの少なくとも1人の副指揮官は病名の分からない病気で死亡している。10月に国防相を解任された李尚福の所在はいまだに不明のままだ。中国の金融部門を監督する最高位の高官も行方が分からなくなっている。2015年以来習近平の身辺警護を担当してきた中央警衛団司令の王少軍が、3か月に及んだ治療も虚しく死亡したと報道され、そのほか習近平の元補佐官の数人も拘束中に死亡したと言われる。李克強前首相の突然の死亡も、秦剛氏の死亡やロケット軍幹部の粛正と無関係ではないかも知れない。
中東ではイスラエル軍によるガザ地区侵攻が激しさを増し、ウクライナとロシアによる戦争が膠着状態となり、その動静に世界の注目が集まる中で、北京では、習近平独裁政権によるスターリン式の粛正の嵐が吹き荒れている。中国の民衆が、こうした事態にも沈黙しているということは、これらの情報がすべて遮断され、情報にアクセスできないという事なのだろうか。それにしても中国の草の根の大衆は、習近平独裁政権の邪悪さ、その危険性に気づき、1年前の白紙運動と同じく何らかの行動を起すべきではないのか。