いすかの嘴 「10月の往復書簡」
「初秋の候、ますます御健勝のこととお慶び申し上げます。平素は格別のご高配を賜り、厚くお礼申し上げます。
・・・ここまではワードの中にある定例文だ。
定例あいさつ文というのは
味気ないものだな。
一行読んだだけで、何だか
侮蔑されたような気分になって、便箋の真ん中を掴んでビッと破りたくなる。
だったら沈黙の方がずっといい。
でも、多くの人は沈黙を嫌う。白紙を見ると何かで埋め尽くしたくなるんだ。
一日の生活にしてもそうだろ。朝起きて何をやって、何時になったらどこかへ行って、それからまた違う場所へ行って何かする。
…そんな有様だよな。
余白があるとダメみたいなんだよ。
でも、俺は余白が好きだ。
空白の時間が好きです。
だから初めから一言だけ
書けばよかったんだね。
久しぶりだね、
藤本ツトムだよ。」
中崎ふゆ子から
藤本ツトムへ
「拝復。丁寧に折りたたまれたツトムくんからの…らしからぬお便り、確かに受け取りました。
白い便箋に浮かんだ文字をぼんやりと掬って裏付けされた余白からひとつひとつコラージュをつくってはみたけれど、瞬きするたび次の情景が広がってゆくばかり。
無いものをいくら埋めようとしてもいつか私たち
丸ごと地面に埋まっちゃうのにね。
空白の時間が好きだと聞くと私は隙間の時間について
考えてしまう。
小さい頃からなーんにも
変わらないふゆ子です。
…そう言えば、冷蔵庫のなかの玉子たち。せっかくマジックで賞味期限を書いておいたのに
みんな揃って気を失ってる。
知らないうちに通りすぎていくのっていいな。
黙って終わっていく
あの感じ。
それでも…真っすぐに伸びる静けさに成長を預けて
たったひとりの幼なじみ
唯一無二のツトムくんにだけは手を差し伸べてもいいと思っています。
かしこ 」
*この作品はフィクションであり、実在の人物や団体などとは関係ありません。
text by reika & tsutomu
玲薫
精神的にファンタジー☆
眠れない夜には詩を編んだり映画を観たり..
好きな作品はビクトル・エリセのミツバチのささやき。。
藤本ツトム
32歳 血液型A型。 趣味 レイモンド・チャンドラーを読むこと。
劣悪な高校を卒業後、 凡庸な大学に入学。そして中退。
その後、都市を漂流する。
photo & edit by Kona
kona
sex ♂
age ないしょ
blood type blood orange's B
hobby 偶然の出逢い
新連載「いすかの嘴」始まりました
どうしたらこんなふうに言葉のみで
世界を創りあげることができるのでしょう。
そんな憧れて止まない2人が、
現実的には離れ離れのまま
交わす手紙だけで何を伝えあうことができるのか
挑戦していただきたかった、という
インコの野望があったわけで…笑
さて、焦り焦りを楽しもうではありませんか。
ー夏色インコ