凸と凹「登録先の志」No.28:津山亮さん(NPO法人こども未来 小規模保育園こどもみらい園 管理者)
子どもたちの笑顔を引き出すのがすごく楽しくて、その一択しかなかった
重症心身障碍児や医療的ケア児の世界に飛び込んだのは、保育士資格を取って初めて担当した知的障碍のお子さんがきっかけでした。その後、別の保育園で担当した肢体不自由の子が聖ヨゼフ医療福祉センターに通っていて、聖ヨゼフの名を知りました。もっと知りたいという意欲はありましたが、すでに家庭を持っていたこともあり、当初は転職をためらいました。
ある時、妻が背中を押してくれて、初めて聖ヨゼフに見学に行きました。まったく知らない世界に衝撃を受け、やはりここで学びたいと思い、転職するために娘が幼稚園に入るタイミングで亀岡市から京都市に引っ越しました。その幼稚園で出会ったのが、こども未来の理事長である岡本さんでした。最初は医ケア児のお父さんという認識はありませんでした。職場で見かけて話をするようになり、理事長の「医療的ケア児が通える保育園をつくりたい」という思いに共感し、2022年4月からこども未来に参加することになりました。
なぜ保育士になったかをさかのぼると、高校の選択教科で保育を選び、夏休みに保育園に行った時に子どもたちの笑顔を引き出すことはすごく楽しいなと思い、その一択しかないと思ったからでした。
転職するまでの保育で培ってきたのは、健常の子どもたちが元気に走り回れるスポーツをメインとしたかかわりでした。でも、重心児にそのスキルは活かせません。可動域が限られる状況でどうしたらいいのだろうとすごく考えるようになりました。今は、子どもの笑顔を引き出す最も難しい領域への挑戦だと思っています。
子どもを預けることができるから働けたり、休む時間を持てるのは健常児も医療的ケア児も一緒
こども未来に入り、目の当たりにしたのが親御さんの苦労です。医ケア児や重心児の家族にも、それぞれの生活や仕事があります。保育園に預けたいのに預けられないという事例が多数あります。預けられないことで、本来送りたい生活ができず、特にお母さんに負担がかかってしまう負のスパイラルに陥ってしまいます。
自営業のシングルマザーで、保育園に預けられるようになる前は、お子さんが体調を崩した時につきっきりで世話をするため店をたたむしかなく、生活ができなくなった方がいらっしゃいました。今は安心して預けられるようになったことで、落ち着いた日常生活を送れるようになっています。
健常の子ども向けには学童等のサービスが多数ありますが、医ケア児向けのサービスはまだまだ整っていないのが現状です。預けることができるから、親御さんが働けたり、休む時間を持てたりするのは、健常児でも医ケア児でも同じです。ただ、医療的ケアが加わると、さらに困難さが増してしまいます。
医ケア児の親御さんも、本来なら預け先を選びたいだろうけど、預かってくれるならどこでも、という思いになってしまいます。よりよい療育を受けられるように、選択肢を広げていきたいと考えています。
今、目の前で困っているお母さんたちに安心して休める時間を
2023年春に医ケア児に特化したデイサービスを開所して、放課後の時間や長期休暇も預かることができ、まもなく訪問看護も始めると、お母さんたちを自宅でも支援できるようになるなど、日中の支援体制は整ってきました。
これから動かないといけないのは、レスパイト(夜に子どもたちを預けられるところ=ショートステイ等)の準備です。そこをカバーできると、お母さんたちの支援がぐっと広がります。しかし、ハードルが高いのも事実です。医師を配置する必要がありますが、人手不足で探すのがとても大変で、行政からの支援も充実しているかというとそうでもありません。
ショートステイが足りないことで、親御さんたちはぐっすり眠れない日々を過ごしています。子どものたんの吸引等で数時間おきに起きて対応しなければならないからです。医療的ケアが必要な我が子が生まれてから、ぐっすり寝たことがないお母さんばかりです。安心してゆっくり眠ることができないと、お母さん自身も健康でいられず、お母さんが体調を崩してしまうと、もっと困ってしまいます。
また、医療的ケアが必要な子どもと四六時中ずっとつきっきりだと、どうしても視野が狭くなってしまい、精神的にしんどくなってしまうことから、少し離れる時間が必要というのもあります。困っているお母さんたちを目の前にしているからこそ、少しずつでも今から取り組んでいかないといけないと感じています。お母さんたちに安心して休める時間をつくっていくための取り組みをぜひ応援してください。
取材者の感想
「ご縁」の連なりが津山さんをこども未来へと導いたんだなと、お話を伺って思いました。私自身も似たようなところがあったので、とても共感しました。
津山さんが保育のキャリアを培ってきたのは、健常の子どもたちが元気に走り回る現場でのこと。重心児には、ご自身が持っているスキルをまったく活かせない中で、新たな分野に飛び込まれたのはすごいことだなと思いました。
子どもの笑顔を引き出すのが難しい領域だけれども、子どもたちにかかわっていて、ちょっとした表情の変化にも気づけるようになったそうです。「生まれてきたからには、いろいろなことを経験してほしい」と語る津山さんから、やさしさ、あたたかさ、そして静かな闘志のようなものを感じました。(長谷川)
津山亮さん:プロフィール
NPO法人こども未来 小規模保育園こどもみらい園 管理者
保育士として5年、幼稚園教諭として3年、重心型入所施設で8年を経験。2016年4月に娘の幼稚園入園で保護者同士として、また同年に重心型入所施設(勤務先)でお子さまを預かったことで、こども未来・岡本和徳理事長と出会う。21年10月に岡本理事長から、医療的ケア児・重症心身障碍児たちが通うことのできる保育園を20年に開園したと連絡をいただき、お話したことをきっかけに「医ケア児も重心児も健常児もみんな一緒に…インクルーシブ保育」の想いに強く共感し、22年4月に入職。23年4月、放課後等デイサービスSunny開所のタイミングで前任者から引き継ぎ、こどもみらい園の管理者となる。
NPO法人こども未来は、凸と凹「マンスリーサポートプログラム」の登録先です。