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坂本雅彦ホームページ

人造石油を信じていいのか?

2023.12.13 07:52

湯・・・出ん。。。

 人造石油の製造は既に可能な状態にあることは資源エネルギー庁の公表からも間違いのないことだと承知する。では、なぜ実用化に向けて進まないか。それはひとえにコストの問題が立ちはだかっているからに他ならない。水素価格に依存していることから1リットルあたり約300円から700円と幅は広いもののいずれにしても高額である。そうした中で新たな手法が耳目を集めた。

 大阪府、大阪市、大阪商工会議所で構成する実証事業推進チームが水と大気中のCO2等から生成する人造石油による発電システムを構築し実証実験を行ったことを2023年1月に発表した。実証実験では、特殊な光触媒を用いて水と大気中のCO2からラジカル水を作り、ラジカル水に大気中のCO2と種油を反応させることで種油と同じ組成である合成燃料を連続的に生成することができるという。生成した合成燃料により発電機を稼働させ電気自動車へ充電する。発電機から発電時にCO2が発生するが、発電に使う合成燃料がCO2を使って生成されることからカーボンニュートラルにも貢献することが見込まれる。仙台市のサステイナブルエネルギー開発株式会社が京大名誉教授今中忠行氏の研究と開発した装置を利用して行った実験である。

 私は科学者ではないので真偽を検証することも組成の根拠を見出すこともできない。概観した範囲で事の次第を検討するに過ぎない。まず、今中教授の論文である「CO2と活性水からの燃料炭化水素の化学合成とドリームオイル用市販軽油の精製」と「燃料炭化水素の化学合成に向けた大気中CO2の直接固定化」は「Edelweiss Chemical Science Journal」という学術誌に掲載されているが、この学術誌はメジャーではない。Open Access Scholarly Publishing Associationには加盟していないようで実態が不明である。特許については「炭化水素の合成方法および合成装置」として日本をはじめイギリス、ドイツ、フランス、オランダ、ロシア、中国で取得しているがアメリカでは拒絶されている。特許の中身は特殊な光触媒に関わるものではなさそうだ。ナノバブルを利用した装置による一連の製法についてのパテントだと解する。

 本来の発明は水とCO2からラジカル水を作る触媒が新発見にあたるのではないのか。今中教授の1998年に記した論文にそれらしきものがある。「CO2から石油を作る細菌」という論文の中で石油代謝細菌(HD-1株)に細胞内に脂肪族系の炭化水素(石油成分)を蓄積していることが確認されたとしている。自然界には石油を分解する微生物は多数存在することは周知であったが、無酸素の環境下で石油を分解するHD-1株は極めて稀な菌である。その後の実験でHD-1株が光を必要とせずCO2を単一炭素、H2をエ ネルギー源として生育することが可能であることが判った。CO2を単一炭素源とするBM培地で生育したHD-1細胞を調べると細胞内には電子密度の低い油滴と思われるものが多数認められた。それが石油成分であるアルカンであることがわかり、代謝経路を解明することが石油生成に繋がり地球環境の維持改善に繋がると結んでいる。

 今中教授の発明が人口石油の製造だとすると、その製造装置も重要な発明ではあるが、石油の生成する経路と成分が最も重要であり発明であるはずだ。今中教授の保有するパテントにはそれが欠けている。HD-1細胞を利用して人工的に石油生成を行えるということが最大の発明であり、石油の成因を決定づけるものあるはずだ。HD-1細胞は無酸素で37℃の常温下で振とうして生育する。それから油分を分離し抽出を効率化する装置は今中教授の持つパテント以外でも開発は可能であろう。よって、人工的に石油を製造する発明にはHD-1株の活用が肝心要であり、HD-1株の特殊性の発見こそが発明の根源である。パテントはそこに焦点を当てなければ本末転倒となるはずだ。今中教授ほどの者がそのことに気が付かないということは考えられない。何らかの意図があるはずだ。今中教授の発明を頭ごなしに否定するつもりはないが現段階では推移を見守るしかない。

 今中教授は人造石油であるドリーム燃料を自身で製造して販売することが本人にとって最大の利益に繋がるはずであるがその計画はないという。その理由として世の中のしがらみを上げている。既得権益者や販売網に従事する者と対立することは避けたいと意向である。だが、それ以前に燃料を生成し販売することを前提とした法整備が現状においては整っていない。石油は輸入するものか、もしくは採掘するものであり、人工的に生成することを想定はしていない。よって、製造、品質、保管、輸送、販売など法整備が為されないと危険も伴うし、国民の生活にも少なからず影響を与える。なにより、石油の輸入は日本にとって外交上の問題も孕む。エネルギー自給率が上がってアメリカ、ロシア、中東に依存しなくて済むことが決して良いこととは一概に言えない。満州事変も日中戦争も大東亜戦争もエネルギーの確保を迫られたことに端を発したという背景を持つ。たとえ人造石油の開発が可能となったとしても世界とのエネルギーの取引のバランスは考慮と配慮が安全保障上必要である。国内での税制上の取り扱いに関する議論も必要であろうが国際ルールの確立はそれ以上に重要なことである。

 かつて、日本においても人造石油の生成に莫大な国家予算を投じたことがあった。国策としての人造石油事業振興の方向が明確化され、昭和11年に「人造石油振興7ヵ年計画」が策定され,翌12年には「人造石油製造事業法」「帝国燃料興業株式会社法」が制定された。昭和13年に北海道人造石油株式会社を設立し人造石油の開発に乗り出した。半官半民の帝国燃料興業の他に三井鉱山、三菱鉱業、住友鉱業など民間会社も出資した。夕張、空知の炭産地に囲まれる滝川の117ヘクタールの地に「東洋一の化学工場」といわれる大規模な工場建設が突貫工事で行われた。総工費は現在の金額にして1兆円を超したといわれる。

 ドイツで発明されたFT法という石炭を高温乾留及び水性ガス化により、ひとまず一酸化炭素と水素の混合ガスにして、それをコバルト系触媒上で反応させ石油を合成する方法を採用した。原理はわかっていても様々な課題が立ちふさがり初出荷は昭和16年となった。そのころ京都大学でも希少資源であり不足していたコバルトに代わり酸化マグネシウムと二酸化トリウムが優れていること発見し、鉄系触媒の開発に成功していた。この鉄系触媒は収量、活性、耐久性共にコバルト触媒を上回る成果を出した。この日本独自の技術が今やドイツの合成法に優っていることから順次コバルト触媒から鉄系触媒に切り替えて生産を開始したものの昭和20年に終戦を迎えて生産は打ち切りとなった。生産量は計画の1割程度に留まり、期待された航空機燃料は製造されず自動車燃料がほとんどであった。アメリカの調査団の報告によると「戦略的には日本の人造石油産業は戦争に貢献しなかった。そのために莫大な労働力と資材が費やされたので人造石油は戦争を助けたというよりは、むしろ、国家の戦争努力を妨げたことは確実であった」と記している。要するに敗戦の一因とされている。これ以降、日本において人造石油製造が国家のエネルギー政策に登場することはないし、産業として復興することもなかった。

2020年には東京大学でFT法における鉄やコバルトなど重金属に代わる触媒としてホウ酸の化合物が利用できることが発表された。鉄やコバルトを利用すると200℃以上の高温・高圧の反応条件を必要とするためにエネルギーの消費が多いが、ホウ酸を利用する場合は室温下で良いという。現状では完全な代替触媒にはならない段階ということだが今後の触媒設計の方向性を示したことになる。

 戦前戦後を通じてFT法に人類が取り組んで80年以上が経過するが未だに人造石油の安定的かつ効率的な製造と実用化には至っていないのが現実である。FT法は一酸化炭素と水素から人造石油を合成する触媒反応である。石油価格が高騰した際などには埋蔵量が多く広く分散している石炭や天然ガスから人造石油を作ることができる。バイオマスを利用したカーボンニュートラル燃料の製造に役立つことも期待されている。

 エネルギー政策に関して政府は短期的な政策転換や目標値の繰上げなどを易々と行ってきた。しかし、現代の世界的なテクノロジーの研究開発を鑑みても50年一区切り、100年を見越して投資とも言える。FT法がそれを示している。石油の世界需要は毎年300億バレルほどである。埋蔵資源量は4兆バレルと言われるが経済限界を想定して算定しているに過ぎない。新エネルギーに取って代わられること予期して石油の探鉱を怠ってはならない。何度もいうが50年、100年先の燃料を担保してこその代替エネルギーの開発である。新エネルギーと循環型社会に円滑にバトンタッチするためには少なくとも今世紀を乗り切るだけの石油の埋蔵を必要である。それらを活用して時間を稼ぎ、新エネルギーと循環型社会に円滑にバトンタッチする。太陽光や風力発電の技術進歩は著しいが、完全に化石燃料に取って代わるには道はまだ遠い。次の世代につなぐために官民を問わず世界は今後も必死で石油探鉱と技術開発に取り組まなければならない。


人造石油について 資料


人造石油をつくるFT法の鍵反応を重金属フリーで実現 東京大学

https://univ-journal.jp/49372/

『水と大気中のCO2等から生成する人工石油って?』 のクチコミ掲示板

https://bbs.kakaku.com/bbs/-/SortID=25130935/

「フィッシャー・トロプシュ法による人造石油 合成触媒、試作品および関連資料」が国立科学博物館「重要科学技術史資料」に登録されました(2021.09.14)

https://www.kuicr.kyoto-u.ac.jp/sites/news/210902-2/

石油の過去・現在・未来 〜目から鱗うろこの新資源論〜

https://oilgas-info.jogmec.go.jp/_res/projects/default_project/_project_/pdf/0/679/200607_081e.pdf

OASPA(Open Access Scholarly Publisher's Association)

https://oaspa.org/membership/members/

CO2と活性水からの燃料炭化水素の化学合成とドリームオイル用市販軽油の精製 論文

https://ittech.co.jp/wp-content/themes/ittech/assets/docs/publication.pdf

燃料炭化水素の化学合成に向けた大気中CO2の直接固定化 論文

https://ittech.co.jp/wp-content/themes/ittech/assets/docs/ECS-20-117.pdf

軽油・灯油が1リットル50円で作れる機械が実用化?!原材料は水と二酸化炭素!

https://note.com/masaki_felix/n/n4c95675428bb

特許 炭化水素の合成方法および合成装置

https://ittech.co.jp/wp-content/themes/ittech/assets/docs/patent.pdf

CO2から石油を作る細菌

https://www.jstage.jst.go.jp/article/microbes1996/13/3/13_3_171/_pdf

人工石油の「ドリーム燃料製造装置」、開発者「永久機関的」

https://access-info.jp/%E4%BA%BA%E5%B7%A5%E7%9F%B3%E6%B2%B9%E3%81%AE%E3%80%8C%E3%83%89%E3%83%AA%E3%83%BC%E3%83%A0%E7%87%83%E6%96%99%E8%A3%BD%E9%80%A0%E8%A3%85%E7%BD%AE%E3%80%8D%E3%80%81%E9%96%8B%E7%99%BA%E8%80%85%E3%80%8C/