自然へとチューニング
樹木と歌に対する共通の情熱から、アーティストのエミリー・アンスワース・ホワイトとミュージシャンでソングライターのマズ・マクナマラが Hedgesong Collective を立ち上げた。その経緯は以下の通り。
翻訳・校正:沓名 輝政
「柔らかなささやきに包まれながら、葉は私をさざめき渡る/トネリコの木立、トネリコの木立だけが私の家」という歌詞と、70代の楽しげな裸足の女性が甘く歌う「The Ash Grove」の哀愁漂う曲が蒔いた種から、Hedgesong Collective(ヘッジソング・コレクティブ)ができた。
「The Ash Grove(トネリコの木立)」はウェールズの伝統的な民謡である「Llwyn Onn(スリイノン)」から翻訳されたもので、恋人を亡くしたときにトネリコの木に安らぎを見出すことを歌っている。美しく、有用な木であり、英国森林保護団体ウッドランド・トラストによれば、英国で3番目に多いトネリコは、感染性の高いカビ病である「ash dieback」の脅威にさらされている。この歴史的な木は間もなく私たちの景観から姿を消し、未来の世代には知られなくなるかもしれない。「トネリコの木立」のような歌によって、私たちはこの樹種を今祝い、後世には記念とすることができるのだ。
ヘッジソング・コレクティブは、樹木と歌を愛する共通の思いから生まれた、制約のない参加型プロジェクトだ。歌にはコミュニティを築きつつ、知識と祝福の手段となる力があると私たちは認識している。生態系が崩壊する可能性のある未来を考えるとき、私たちはコミュニティの場に木に関する歌を持ち込むことで、人々が感情的、実践的、精神的な環境とのつながりを再構築する助けになると信じている。
私たちは特に、祖先によってすでに保存されている古い知識を掘り起こすような伝統的な歌を集め、共有することに関心がある。私たちの祖先はイギリス諸島に根ざしており、このプロジェクトはイギリス諸島を拠点としているため、樹木を歌った伝統的な民謡を探す際には、ここを出発点としている。
私たちは、これらの歌において、一般的に森が非常に重要であることを学んだ。恋人たちが出会い、求愛し合い、殺し合う場所であり、女性はしばしばここで強要され、神話上の生き物と出会い、その生き物は、しばしば村人をだましたり孕ませたりする。森はその大きな静寂の中に歴史的瞬間を秘めている。何百年もの間、私たちは森の中に自分たちの居場所を感じ取り、木々に抱かれ、支えられたいという永遠の憧れは、歌の寿命の長さにも表れている。
とはいえ、伝統的な歌に登場する樹木や植物は、場面設定としての役割を果たすことの方が多いようだ。個々の樹種を讃える歌の数は、1、2行述べて終わる歌に比べればごくわずかだ。最初はもどかしかったが、このことは、人間が土地と結びついているように、歌は植物と結びついていることを思い出させてくれた。私たちが日々の仕事をこなし、試練や苦難を乗り越え、喜びを分かち合うとき、周囲の植物は常に存在し、しばしば物語の中でさりげなくも力強い声を発している。
私たちは、これらの歌の歌詞に雑草のように埋もれている古くからの不朽の知恵、つまり薬草の言い伝え、習慣や迷信、私たちには未知のもの同士の古いつながりについて興味がある。例えば、伝統的な歌「In Yonder Old Oak(あすこの古いオーク)」に登場するオーク、甘いスミレ、そして年老いたカラスの間にはどのようなつながりがあるのだろうか?さらに広い植物の世界に目を向けると、このプロジェクトが発展するにつれて取り入れたいと考えているのだが「Let No Man Steal Your Thyme(タイムを誰にも盗ませない)」という歌は、注意喚起のメッセージの中でハーブや樹木の象徴を多く取り上げている。これは、女性たちの伝統的な薬草の知識を水面下で伝えていた可能性さえあるのではないだろうか。これらの歌は、土地の存在と神話を吹き込みながら、私たちの祖先の日常生活の視点を提供してくれる。
そこから実用的な知識を得ることもできる。例えば「Logs to Burn(燃やせや丸太)」は、木こりの掛け声が元になっていると考えられており、様々な種類の木材の燃え方の特徴を教えてくれる。それよりも近代の民謡で、1970年にピーター・ベラミー(Peter Bellamy)がラドヤード・キップリング(Rudyard Kipling)の詩から作った民謡「Oak and Ash and Thorn(オークとトネリコといばら)」は、弓に使うイチイやコップに使うブナなど、さまざまな木の用途を教えてくれる。
現在、このプロジェクトの収集段階にあり、木を題材にした歌を知っている人なら誰でも、この集合的な歌と知識を貯める場の一員になっていただけるよう、募集している。私たちは、伝統的な歌だけでなく現代的な歌の共有も歓迎し、生きて呼吸する民俗の伝統の一部として現代的な作曲を尊重している。ブリストルを拠点に活動するミュージシャン、トーマス・キャラダイン(Thomas Calladine)は最近、巡礼の木として有名なヘレフォードシャーのラグドストーン・ヒルにある樹齢500年のホワイトリーブド・オーク(2020年に焼け落ちた)について書いた歌をシェアした。このような歌を作ることで、私たちは今日の木との関係を記録している。
「オークとトネリコといばら」のように、伝統的な歌の中には、構成やメロディーの面で新たな息吹を吹き込むことで、できるだけ記憶に残り、親しみやすくなるものがある。私たちは、グループで歌いやすく、コミュニティ全体に広がっていくような歌のバージョンを見つけようとしている。これは、歌い手から歌い手へと受け継がれるにつれて常に変化し、進化していく民謡の本質なのだ。
私たちの目標は、これらの歌をさまざまな文脈で共有することだ。ワークショップや歌の散歩を開催し、木の歌を民俗学や生態学とともに教える。参加者もまた、共有された知識に貢献できるような、協力的な場となることを願っている。アート・ファシリテーターとして私たちが共通して関心を寄せるのは、コミュニティを民俗の歴史に根付かせ、自分たちの土地を直接体験できるような、開かれた共同プロジェクトだ。樹木は英国のほとんどの生息地で見ることができ、都市のような人口密度の高い場所でも自然のシンボルとなっている。ほとんどの人が、毎日少なくとも1本の木を見ている。それがどんな樹種かは知らないかもしれないし、それについて考える時間もないかもしれないが、樹木は私たちがつながるきっかけを与えてくれて、大自然への入り口となる。
ハードな環境保護キャンペーン活動で燃え尽き症候群の症状を経験したエミリーは、社会活動に滋養のある創造性を取り入れることの価値を認識している。ポジティブな変化をもたらす力としての喜びに情熱を注ぐ彼女は、住宅施設でウェルビーイングのアシスタントとして働いていたとき、歌うことのメリットを理解し始めた。「トネリコの木立」を歌うボランティアの弱さに心を動かされたエミリーは、最大30人の高齢者の歌のグループを指導した。エミリーは、グループの高揚を容易に目の当たりにすることができたが、時間の経過とともに自分自身の変化にも気づいた。彼女は、自分の声をよりコントロールできるようになり、喘息が改善されただけでなく、自分自身の中にしっかりと根を下ろしている感覚が高まったことに気づいた。不安が軽減され、他人とよりよくつながることができるようになった。
遊び、分かち合い、つながりをテーマにした創造的な空間は、希望、回復、再構築のビジョンを提供する。森の木々のように、私たちはそれぞれ、コミュニティやより広い環境に提供できるスキルを持っている。成長が遅い低木のようなサンザシは、背が高く成長が早い樹冠を覆う樹木と同じように、提供できるものがたくさんある。このことは、私たちの日常生活と同様に、社会活動にも当てはまる。どのようなタイプの人であれ、どのようなスキルを持っている人であれ、未来を構想し、形づくる上で不可欠な役割を担っているのだ。
木と一緒に過ごし、その名前や特徴、民俗的な歴史を学ぶことで、私たちは「人間の世界」を木に近づけることができる。ゆっくりと成長する葉、這う蔓、空に向かって伸びる緑の腕のために、私たちの意識の中に空間を作るのだ。私たちには、私たちが埋め込まれているこの生き生きとした生きた世界を知り、感じる機会が必要であり、歌はこの空間への強力な出入り口となる可能性を秘めている。
ヘッジソング・コレクティブはこの夏、ランドワーカーズ・アライアンスのランド・スキルズ・フェア(Landworkers’ Alliance’s Land Skills Fair)で、デビューとなる森の歌のワークショップを開催した。私たちは最近、Creature Conserveのアート&エコロジー・プログラムから少額の資金援助を受けることができた。私たちの計画の中には、イラスト入りのソングブック「Ash Pilgrimage(トネリコの巡礼)」(歌、民俗の言い伝え、クラフトを含む)、さまざまなコミュニティでのワークショップなどがある。オープンな資源として、私たちは他の人々が自分たちのコミュニティでこれらの歌を共有することを奨励している。
アーティストのエミリ・アンスワース・ホワイト(Emily Unsworth White)とミュージシャンでソングライターのマズ・マクナマラ(Maz McNamara)は、ヘッジソング・コレクティブの共同設立者。インスタグラム@hedgesongcollective、またはEメールhedgesongcollective@gmail.com でつながれる。
この記事は、2023年11月20日午後7時から8時に開催される読者グループディスカッションの焦点となる。