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Angler's lullaby

電脳化されない道具商

2018.11.10 15:00
どうも最近、なんだかなあ、な本を読み過ぎたせいかもしれない。


2045年には不老不死の人類が誕生して、


コンピュータ関係の有名人や、博士たちは警鐘を鳴らしていて、


さらに、あの時代の寵児は、こんな薄気味悪いことまで言ってるらしい。素人って・・・。

そりゃあ、こんなに世界中の人たちが毎日ネットにアクセスして、喜怒哀楽を交換していているんだから、物忘れなんてしないAIは淡々と全てをデジタルデータにしながら、その電脳に膨大な知識を蓄えているに違いない。人間の感情と行動の相関関係を。

大体、昔の人は「タダほど高いものはない。」と良く言ったもので、「無料アプリ」とか言うけど、その代償に何だかえらく大事なものを吸収されてるような気分になるのは私だけだろうか。

また、AIとバイオテクノロジーが合わされば、不老不死だってきっと出来るんだろうな。


でもねえ。

なんだかなあ。。。



そして、仕事で毎年来ている新宿もまた、20数年前の学生時代、埼京線にノンビリと揺られながら足しげく通っていた時のような、どことなくのどかで、ノンキだった空気は全くなくなっていて、


多くの情報と国籍と、何か得体の知れないモノたちがごちゃ混ぜになりながらフルスピードで駆けめぐる電脳都市のように感じられた。


道行く色んな肌色の人々の大多数がスマホに向けて首をうなだれたまま、指先を動かし続ける様子はよく見ると異様で、まるでスマホに繋がれて、飼われているようにさえ見えた。



それらはまるであのキアヌ・リーブスの「マトリックス」の中にあった緑色の文字たちのようにも感じられて、いい気持ちがしない。


「なんか、ここで暮らし続けるのって、根っこが地面にくっ付かずにずっとプカプカ浮き続けているホテイソウみたいだな。」



関東で10年暮らしていたあの時感じたこと。そしてその後間もなくして実家のある宮崎へ帰った。

膨大な情報の渦は時に人の感覚を麻痺させることがあるのだと思う。


しかし、アレはもうそんな沙汰じゃない。プカプカなんてしていられない位の激流だと思った。この町はきっともう未来に入ってしまったんだろうな。大変だな。



仕事を終え、そそくさと新宿を後にして世田谷へ毎度の定点観測に向かう。



相変わらずの空気。相変わらずの店主。店の中にはJ-WAVEなんかが流れていて、それ以外に電波らしいものは飛んで来ない。きっと建物の外壁に現代の余計な諸々を遮断するための特殊な何かが仕込んであるはずだ。間違いない。

そこにいるだけで、どっしりとした、暖かい、普遍的な何かが足元から浸みてきて、とても心地良い。

ここだけは東京にあってもきっと、ずっと電脳化なんてされないだろう。

それがいい。それだからいい。



なんてったって、この手書き伝票。

この時代に、ですよ。最高じゃあありませんか?



ところで、最近ずっと考えていることがある。


「AIに理解出来ないことってなんだろう。」


それはきっと人類存続のための大事なテーマに違いないと思っている。


開店したてで、まだ落ち着いていない店内を勝手に写真を撮りながら歩いていると、ふと気付いた。



要は、流されなきゃいいんだ。



パッと見便利そうなものに流されることなく、余計なことはせず、語らず、しかし己の芯の部分は決して曲げずに貫き通す。


多分AIが一番苦手なのはこの道具商みたいな人間たちかもしれない。そう思った。


それが分かっただけでもここに来て良かった。


とりあえずしばらくはAIのことなんか気にするのはやめにしよう。

釣りに行けない日は、こんな本でも読んで、まだ見ぬ清流のことを夢見るとでもしよう。

要は自分さえしっかりしてればどうってことないのだから。