政談363

【荻生徂徠『政談』】363

　●妾を妻とする事

　妾を妻とするのはよくないことである。自分が気に入ったならば、家来に崇めさせる事は、非法ではあるものの、そういうこともあるだろう。親類や朋輩にも奥様と呼ばせ、崇めさせるのは以ての外である。どれほど厚かましいことか。しかし、これも世の風俗となってしまうと、もとからそうであるかのように人々は思ってしまう。これは礼法ではなく、ただ周囲を見渡し、「人がすることだから問題ない」と決めつけてしまうのが世の風俗だからである。

［解説］本書が将軍に提出される前、享保9(1724)年に幕法として、事情によっては側室を正妻とすることを認めた。その場合、万石以上は月番老中に、万石以下は所属する頭・支配への届け出を義務付けた。これに対して徂徠は「よくないこと」と批判する。その理由は以下に述べられる。