ワインの香りを化合物から整理する⑧ ひね香(ひねか)~ソトロン、フルフラール~
一般的に、ワインは酸化に弱いと言われており、貯蔵・熟成中の管理方法や,コルクの劣化によって酸化が進みすぎてしまうことがあります。酸化したワインは,色が褐変し(メイラード反応と呼ばれる現象)、焦げ臭,老酒や醤油の様なにおい、カラメルのような香り「ひね香(老香)」が感じられます。今回はその香りの原因となるソトロン(Sotolon)を中心に、宇都宮 仁先生(元独立行政法人酒類総合研究所)の論文を参考に紹介します。
ソトロンは、ラクトン類※1の一種であり、フェヌグリーク(画像参照)というメープルシロップに似た香りが特徴のハーブ・香辛料に多く含まれています。フェノグリークはインドや中東ではカレーなどのスパイスとして用いられている植物です。日本では、70年代に日本酒のひね香(ひねか)の原因物質として発見された後に研究が進み、ワイン、特に貴腐ワインや長期熟成したシェリー、ポートワイン、ヴァン・ジョーヌで顕著に感じられます。
ソトロンの合成はα-ケト酪酸とアセトアルデヒドによって作られる経路、アミノ酸とグルコース(糖分)から合成されるメイラード反応が関連する経路など多様な合成過程が報告されています。
ソトロンは量によって香りの性質が変わることがわかっており、「カレー様」(高濃度)、「漢方薬様」(700ppb程度)、「焦げ臭」(70ppb)、「糖蜜様」(0.01ppb)と変化します。日本酒においてひね香と感じられる量は140~430ppmであり、貴腐ワインでは5~20ppmでした。貴腐ワインのレベルだとちょうど良いのでしょう。
フルフラールは芳香族アルデヒドの一種であり、アーモンドに似た香気を持ちソトロンと似た香りを生み出します。フルフラールは、アミノ酸とカルボニル化合物によるメイラード反応によって生じますが、空気に触れると急激に黄色く変色します。日本酒や焼酎、ワインのひね香の原因物質のひとつであり、長期熟成によって生成が増えていきます。
長期熟成された日本酒やシェリー、紹興酒にも感じられるひね香ですが、今後は「ソトロンの香り」と表現してみてはいかがでしょうか?
※1 ラクトン類はエステル基を持つ環状構造の化合物のこと。桃、ココナッツ、ミルクなどの香りと言われており、樽からも抽出される。和牛にも多く含まれる(Wikipediaなど)。
メープルシロップ臭のするフェヌグリーク。フェヌグリークはハーブ・香辛料の一種でもある、マメ亜科の一年草植物。地中海地方原産で、古くから中近東、アフリカ、インドで栽培された。日本には享保年間に持ち込まれたが、農作物として栽培されることはなかった。(Whikipediaより)
清酒の老香(ひね香)とその前駆物質
きた産業HPより(http://www.kitasangyo.com/pdf/e-academy/tips-for-bfd/BFD_28.pdf)