宿泊だけで社会貢献
2018.10.16 08:46
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先月仙台で開催された日本心理学会において、川畑秀明・慶応大教授らのグループが「泊まりたい宿は何によって決まるか?」と題する研究を発表した。「どのような宿に泊まりたいか」という宿泊先に求めるイメージと、「どのような宿であることが重要か」という宿泊ニーズに至る心理構造について明らかにすることを目的としているという。男女1,400人へのアンケート結果から、イメージ・ニーズとも、観光動機によって大きく影響を受ける可能性があることを示し、加えて利便性の必要有無は心理状態に左右されることなどが示された。そのなかで注目したのは、「観光や宿泊は現実世界と切り離された特別な体験であると考えられるが、親近性や娯楽性といったイメージが求められることなどが明らかになった」という点だ。
どういった観点で人は宿泊先に親近性を抱くのか。先の研究における親近性には、「便利な」点も含むが、別の要素として挙げられた「親しみやすい」という点で検討するにあたり、米ヒルトンが実施した調査をヒントとした。世界の同ホテルに宿泊した客7万2,000人を対象に今年5月に行われたものだ。宿泊先を選ぶ際、ホテルの環境や社会活動について予約前に調べるかどうかを聞くと、全体の33%が「積極的に情報を探す」と答えており、18~24歳に限ると44%の回答率だったという。この結果から、環境保全の意識が高いが故に、環境に配慮した宿泊施設を選ぶ若者が多いと捉えるに至った。「環境」に対するスタンスが、宿への親近性を感じられるか否かのキーワードのひとつに挙げることができそうだ。
では、このことは日本に限っても同様に当てはめられるのだろうか。社会的性格を検討するにあたり、当座国内企業の環境意識を報道にみてみる。世界の機関投資家はESG投資と呼ばれる考え方を重視し、環境や社会貢献などに積極的な企業へ投資する姿勢を強めており、日本でもESG投資家を意識する企業が急増している。プラスチック製ストローの使用を中止するホテルや外食チェーンが相次ぐ状況はある種象徴的な意味合いと捉えられるが、社会的課題に対する取り組み姿勢が投資家に低いと評価されれば、保有株を売却する「ダイベストメント(投資撤退)」の動きが出てもおかしくないほどとされる。そして、消費者はどうか。環境省の「環境にやさしいライフスタイル実態調査 国民調査の結果」によれば、20代において、「環境に対する関心は高かったが前よりもさらに高まった」とする答えが他の世代を上回り、特に意識の高い旨がうかがえる。
これまでもタオルやシーツの交換頻度を減らすといった取り組みはあったが、より踏み込んだ取り組みをすることで支持を集める宿泊施設がある。東京・千代田区の「KIKKA」は今年8月開業した。サスティナブルをテーマにかかげ、宿泊や食事を通して無理なく自然な形で社会に循環する仕組みをつくっている。例えば、TABLR FOR TWOとの協業で、飲食物の購入費用やアメニティの不使用といったアクションがアフリカの子どもたちに給食として届く寄附の仕組みを構築。また、施設内は木を多用し自然のぬくもりを感じられるよう工夫し、ベッドには日本家屋から出た古材を再利用している。さらには、食材のロスを防ぐための仕入れを行ったうえで、ニンジンなどの野菜は皮をむかずに調理して無駄を減らしているという。週末はほぼ満室に近い状態のようで、宿泊客の半分以上は20~30代だ。「泊まるという行動だけで社会貢献できるのがいい」「普段から買い物時にできるだけ袋をもらわないように意識している。エコなホテルは好感が持てる」という声が客から聞かれ、運営元は「自分のできる範囲で社会に貢献できることが若者の満足感を高めているのではないか」と説明している。
従来の宿泊施設選びは価格や立地が重視されていたものの、とりわけ若い消費者の行動には変化が見られるようになってきている。ホテル選びのwebサイトにおいても、検索条件に宿泊施設の環境に対する意識度合いや「エコマーク」の認定有無といった項目が設定される日は遠くないのかもしれない。
TOPIC:A
エコホテル、若者誘う
2018.9.8(土)日本経済新聞夕刊より引用
環境に配慮した宿泊施設を選ぶ若者や訪日外国人が増えている。古材を再利用した家具などリサイクル品をそろえたり、使用する電力を地域で作って賄ったりするホテルが登場。これまでもタオルやシーツの交換頻度を減らすといった取り組みはあったが、より踏み込んだ取り組みをすることで意識の高い若者から支持を集めている。
TOPIC:B
宿泊前に環境配慮調べる、18~24歳4割
2018.9.8(土)日本経済新聞夕刊より引用