聖なる踊り子
コマーシャルや映像の監督をやっている友人(男性)が、あろうことか最近フィットネスクラブでベリーダンスを始めたという。それじゃ、ベリーダンスの名手の踊りを観に行こうじゃないと誘って、過日、渋谷はCafe Boemiaで落ち合った。「インディア中村」の踊りをやっている〝常設館〟のようなカフェ。
2016年に初めて彼女の踊りを見て、これで3回目になる。やはり、彼女の踊りにずっと釘付けになってしまう。
日本人としてさえ小柄な方だろう。だが、そのしなやかでバランスのとれた肢体が不思議な運動率で全身の部位が動いている。止まっているところは一つもない。波動というべきか。
天分と鍛錬がここまで昇華させたのかなって思う。その上、セクシーといえばこれ以上ないような表情にも心を奪われる。
「女とは精製された不純物にほかならない」というアイロニックな言葉がある。……そうして、このにこごりは男の大好物だったりする。そしてときには身を滅ぼす。インディアはそれを酒精分にまで純化させ、そしてそれが馥郁たる芳香を放つ。
人類・医学・植物・心理・物理・動物・海洋生物これら全てに学位を持ち動物行動学で博士号を持つライアル・ワトソンの著作に『未知の贈り物』というのがある。物語と科学的考察を見事に融合させた不思議な読み物である。
インドネシアの小さな島にたどり着き、踊り子の少女ティアに出会う。その不思議な島で、暮らすうちにライアル・ワトソンは、マクロであり、同時に、ミクロでもある量子力学やあらゆる分子が波動という動きを続けると言うことなどがその古い小島の政(まつりごと)の中に脈を打っている事に、愕然とする。ティアは“聖なる踊り子“でもあった。彼女が踊ることにより、人間を消し去ったり、火事を起こす力を持っている。
最初にインディアに遭遇したとき、 そのテイアとインディアとをダブらせながら観て、心も感受性もこそげて持って行かれてしまった。
彼女は幼い時から、踊ることが好きでクラシックバレーで英国にまで留学している。22歳の時にたまたま訪れたトルコ国境の村で、形式美のクラシック・バレーとはまったく異なるフリースタイルの踊り(チフテテリ?)に遭遇して心が震えたらしい。それからこの踊りに没入していったという。
講談社主催のミスiD1214(新しい時代にふさわしいまだ見たこともない女の子の発掘)オーディションに出場して、特別賞をもらったのだが、その時の審査員のコメントが素敵だ。
「時代が違えば一国の運命を狂わす踊り子」(竹中 夏海:振付師・女優)
「彼女ならダンスで王国を滅ぼすことも、作ることも出来る」(山崎 まどか:コラムニスト、ライター、翻訳家)
それに加えて今回は、戯れる感じと心から踊ることを楽しんでいる〝遊び〟も加わっていた。
アートの世界によくある「完成」の域からわざと崩して、「永久の未完成、これ完成」を目指しているのかも知れない。