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Evidence Based Physical Therapy - 理学療法士 倉形裕史のページ

脊損患者の歩行再建に関する論文:The New England Journal of Medicineに載っている 4例のケースレポート②

2018.10.22 17:40

おはようございます。University College London (UCL)の理学療法士の倉形です。理学療法士はリハ専門職のひとつです。 


前回から、脊損患者への硬膜外電気刺激を用いた歩行再建に関する論文に関して書いています。 


論文の骨格である。

PECOは、 P(患者):脊損になってから2.5~3.3年が経過した患者。       

通常のリハビリによって歩行再建を行ったものの、歩行獲得に至らなかったというのも条件に入っています。 受傷した高さより下位の自力での運動はできない。感覚に関しては残存している人も含まれているようです。 


E:硬膜外電気刺激を併用した集中的な歩行再建のためのリハビリ 


C:ケースレポートなので、比較している群はない 


O:歩行(トレッドミル上、地面の上)、自力での立位保持、体幹の安定性 


の様です。PECOに関してよく分からない場合は下記の記事をご覧ください。


 アブストラクトによると、結果としては、4例のうち2人がトレッドミル上でない地面の上を歩くようになったようです(歩行の程度に関しては本文で詳しく述べられています)。全例が自力で立位保持が行えるようになって、体幹の安定性が向上したようです。


ただ、一例が原因不明の股関節周囲の骨折が発生したようです。本文をパッと見た限りでは、リハビリ中の転倒などではないようです。 


Patient:対象 

まず、対象を少し詳しく見ていきます。 

まず気になったのは、『んっ?完全麻痺なのに感覚が残存している人がいるの??』という所です。日本のリハ職種は脊損の評価にASIAという評価スケールを使います。その中では完全麻痺の定義として、肛門周囲の感覚の脱失(感覚が全くないこと)が条件に含まれているからです。

それに対して今回の研究で使用されたのはThe American Spinal Injury Association Impairment Scale (AIS)です。使われているスケールが違うのかな?と思いましたが、ASIAはThe American Spinal Injury Associationのことだし??と思ってネットを見ていたら、 こんな記述を見つけました。 



1982年にSamuel Stoverらが作成した評価法をAmerican Spinal Injury Association(ASIA)が採用し、2000年までに5回の改訂が行われ、現在はInternational Standards for Neurological Classification of Spinal Cord Injury(ISCSCI)となっています。 日本ではASIA評価と称し、ISCSCIによる評価が実施されています。 

出典:自分でできるボディワーク 


は~、知らなかった(;’∀’) というわけで、日本で一般的に使われている基準とは今回の研究で使用された基準は少し違うようです。



この違いは結構重要かもしれなくて、今回歩行再建が成功した2例は共に感覚が残存している人たちで、残りの2名は感覚が脱失していました。

この研究で使われていたAISでは、完全麻痺が二つに分かれていて 

・AIS grade A が自力での運動が不可でかつ、受傷した部位以下から肛門周囲を含む感覚が脱失している 


・AIS grade B が運動は不可だけど、程度は問わないものの、受傷した部位以下の感覚が残存している ということらしいです。 


4例の受傷した部位はそれぞれ・・・

 症例1:T4(grade A:感覚脱失) 

症例2:T4(grade A:感覚脱失) 

症例3:C5(grade B:感覚は一部残っている) 

症例4:T1 (grade B:感覚は一部残っている) 

ということでした。 


結果を先にざくっと書くと、症例3と4の方が地面の上での歩行再建に成功しています。興味深いのは、症例1,2の方と比較してより高位の受傷ということですね(;’∀’) 

あくまで印象ですが、介入期間も特に、歩行が再建できた二人の方が長いということもなさそうです。


通常は、受傷部位が高位の方がADLは悪くなります。このデータからは、受傷した高位よりも感覚の残存の方が重要であるかのように見えます。 

ただ、あくまでもケースレポートなので、この推論が正しいかの保証はありません。そこに関しては今後のより大規模でバイアスがコントロールされた研究を待たなければいけません。 


最後に、結果の表を載せます。 


長くなりましたので次回に続きます。 



今日も、最後までお付き合い頂きありがとうございます。

 理学療法士 倉形裕史 


次回へのリンクです









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