【イソップ童話】「卑怯なコウモリ」~人としてどうなの?
昔、鳥の一族と獣の一族がお互いに争っていました。
情勢を見守っていたコウモリは、鳥の一族が優勢になると「私は鳥の仲間です。あなたたちと同じように羽を持っています。」と言い、獣の一族が優勢になると「私は獣の仲間です。ネズミのような灰色の毛皮と牙があります。」と言い、形勢が有利な方に加担しました。
その後、鳥と獣は和解して争いが終わります。すると、何度も寝返ったコウモリはどちらの種族からも嫌われて仲間外れにされ、やがて暗い洞窟に身を潜めるようになりました。
仲良く暮らすようになった鳥と獣たちに重大な危機が訪れます。彼らが生活する森や草原にイナゴの大群が押し寄せてきたのです。奴らは、あたり一面を覆いつくして、情け容赦なく食べつくす。この恐ろしいハゲタカのような虫の群れが去ったあとには、草木一本残りません。これまで、このハゲタカのせいでいくつもの種族が滅んできました。このまま放っておけば、動物たちは食糧もねぐらも失ってしまいます。
動物たちはイナゴの大群を追い払おうと必死に戦いますが、奴らは自在に飛び回って攻撃をかわし、群を成して反撃してきます。膨大な数の敵を前にして、鳥も獣も手をこまねいていました。
この様子を見ていたコウモリは、一計を案じます。
そして、イナゴの大群に近づくと、こう耳打ちしました。
「明日の朝、鳥と獣が、君たちに総攻撃を仕掛けかけてくるよ。君たちはすばしっこいから逃げ切れるとは思うけど、たくさんの仲間が死ぬだろうな。」
イナゴは、けげんそうな顔をして聞きました。
「お前はどうして、わざわざそんなことを教えに来たんだ。お前は鳥の仲間だろ?」
「いいや、ボクには灰色の毛皮と牙があるだろ。鳥じゃないよ。」
「だったら獣の仲間だろう?」
「いいや、ボクには羽があるだろ。獣じゃないよ。本当はね、ボクは君たちと同じ虫の仲間なのさ。だから、こうして助けに来たのさ。」
コウモリの話を信じこんだイナゴは、コウモリに問いました。
「で、俺たちはどうすりゃいいんだよ。」
待ってましたとばかりに、コウモリが策を授けます。
「ボクたちの洞窟を一つ貸してあげるから、今のうちに洞窟に隠れるんだ。危険が去ったらボクが教えてあげるから、それまでそこでじっとしているんだよ。」
コウモリは、イナゴの大群が洞窟に退避するのを見届けると、鳥と獣に会いに行きました。
「鳥さん、獣さん、イナゴを退治するよい方法がありますよ。」
「またお前か、お前の言うことは信用できん。」
「まー、ボクの話を聞いてくださいよ。」
コウモリは、イナゴの大群を洞窟に誘い込んだこと、森や草原を失うことが自分たちの生活にも一大事であることを説明しました。
「分かった。今回はみんなで協力して森と草原を守ろう。」
動物たちは、イナゴの大群が逃げ込んだ洞窟の入り口に集結して、コウモリの指示を待ちます。
「いいかい、力持ちの獣さんたちは、岩を転がして洞窟の入り口を塞ぐんだ。鳥さんたちは、小石を運んで岩のすきまを埋めるんだ。」
「それ、一気に塞いでしまえ!」
こうして、イナゴの大群は洞窟に閉じ込められ、森と草原は守られました。
「コウモリ君、ありがとう。よかったら僕らの仲間にならないかい?」
鳥と獣が声をかけました。しかし、コウモリは首を横に振りながら、
「いや、やっぱりボクは鳥でも獣でもないよ。コウモリはコウモリなのさ。」
そう言うと、ネズミのような顔を突き出し、さっと翼を広げて自分の洞窟に帰って行きました。
動物たちは、コウモリの知恵に感心しながら、その後ろ姿を見送りました。
コウモリは言う。
その昔、鳥の一族と獣の一族の争いによってどれほどの動物が死んだことだろうか。今回のイナゴとの戦いによってどれほどの者が傷を負ったことだろうか。しかし、私たちコウモリは、これまで無駄な命を一つも失うことなく生き抜いてきた。
誰が味方で誰が敵かなんて時と場合で変わる。適切な状況判断によって危険を回避し、無駄な争いはしない。たとえ、孤独という代償を払うことになってもだ。これが私のアイデンティティーなのです。
(引用)