【前編】ふと思い出したけど、意外と深いんじゃないかって話【長文】
どうも。37度程度の熱で稼働率が通常の5分の1になります。カラオケ界のポンコツこと、からおけ太郎です。
僕は常日頃から面白くなりたいなーと思ってるんですが、特に大学生の時は際立ってそう考えていました。
最近また面白くなりたい欲が刺激されて、ふと大学生の頃を思い出したので、ちょっと書いてみます。
ある2月の晴れの日。東北にある大学で3年生をやっていた僕は就職活動なる殺し合いに駆り出されていました。
昼過ぎから奮起して、エントリーシートっていう創作物を書き出したんですが、どうも筆が進まない。大体晴れの日に部屋にこもってパソコンに向かうなんて健康に悪い。気分転換に外に出ることにしました。
その時はちょっとした小説家の先生になりきってるわけで、「よっこいせ」とかいって立ち上がった気がします。
まぁ、軽く外気に当たって頭を冴えさせるくらいの気持ちだったので、特に上着を着るわけでもなく上下スウェット裸足にサンダルという割と東北の冬にそぐわない格好で外に出ました。
連日の雪のせいでなかなかの外気だったけれど、室内の暖房で火照った身体を冷ますにはちょうど良かったです。
家の周りを一周して部屋に戻ろうと思ったんですが、ちょうど駐輪場の所で、汚れた自分の原付が目に入りました。そういえば、最近雪降ってあんまり乗ってなかったなー…。なんて思ったりして。
ほら、僕って気になるとどうしようもなくなるタチじゃないですか。可愛い原付の手入れをすることにしたんです。
手入れっていっても、専用のシートで拭くだけなんですけどね。柄にもなく「いつもありがとう」なんて思いながら拭いてやりました。
その時です。
強烈な視線を感じました。うちの駐輪場は道路に面していて、外から丸見え。東北の2月にそぐわない格好をしている僕を不審がった誰かが凝視しているのかなーと思って気にしないことにしました。
でも、なかなか視線は消えません。気になってチラッと見たらなんか、田舎に良くいそうなバーさんが何か言いたげにこっちを見ていました。
まさか。
このクソ寒いにも関わらず薄着で可愛い原付を手入れしているという微笑ましい状況を、2月の東北にそぐわない格好の不審者が原付を盗もうとしている状況と捉えられたんじゃないか。
そうだ。そうに違いない。そう思ったら、そのバーさんが途端にイジワルなバーさんに見えてきました。
きっと自分の家の嫁にも口うるさく言うバーさんなんだ。僕はバーさんを無視するという徹底抗戦に入りました。
長い、長い膠着状態が続きました。
あまりにも長いもんで、僕は一種の親近感をバーさんに感じました。たぶんバーさんも同様です。ぶつかり合ったものにしか理解できない、独特の信頼。僕らはこの邂逅で戦友(とも)と呼び合える仲になったでしょう。しかしバーさんは僕の強気な姿勢に諦めたのか、その場を離れていったんです。
勝った。
心の中で勝利の雄叫びをあげると同時に戦友(とも)との別れに一抹の寂しさを感じました。あと原付の手入れも終えました。
えも言われぬ達成感に酔いながら、部屋に戻ろうと立ち上がった時。
再びバーさんが降臨しました。
僕からすれば強襲です。勝ったときこそ油断してはならぬのに、と唇を噛み締めましたが、時すでに遅し。その距離3メートル。ばっちり目が合ってしまって、瞬間お互いが動きを止めました。
「なんだやんのかババア!」
と心の中で威嚇したのですが、流石はイジワルなバーさんです。動じません。
先に動いたのはバーさんでした。
「ねぇ、ここはどこだろうね!」
はっきりと通る声で語りかけられたので言葉は聞き取れたのに、何を言ってるのか良くわかりませんでした。
「何言ってんだこのババア…」
と、心の中で思ったのを鮮明に覚えています。
ただ、バーさんが思ったより下手に出てきたこと、戦友(とも)であることを踏まえ、路線を変えて話を聞くことにしました。
僕「どうしたんですか?」
バーさん(以下、バ)「いやね、軽く散歩に出たんだけど、道に迷っちゃってね。ここどこかね」
なるほど。
なんていうことでしょう!
このおばあさんを助けたらなんか面白いこと起きるかも…!
「スベらんなぁ」
人志が語りかけてくる。
「それにしても、スベらんなぁ」
僕の中の千原ジュニアが立ち上がりました。
僕「迷っちゃったんですね。おうちの住所を教えてください。案内しますよ」
バ「えーとねぇ。あー、なんだっけなぁ、こないだ引っ越したから覚えとらんのよ。あっちにある塔の方から来たんだけどねぇ」
いいぞ!いいぞ!このおばあさんを助けるには骨が折れそうだが、その分面白いことが起きそうだ!だけど、アンタが言ってる塔って電柱じゃん。四方八方にあってなんの役にも立たねーよ。
心の中で愚痴りながらもワクワクは止まりません。
僕「じゃあ、ご家族いらっしゃいますか?連絡先を教えてください。それはわかりますよね」
バ「うーん。息子が2人おって…。1人は一緒に住んでるんだけどね。ケータイ…っていうの持ってたと思うんだけど、あたしには教えてくれんのよ」
おいおい、息子どうなってんだ。おふくろさん1人家に残して心配じゃないのか。
バ「あ、でもね。働いてる店の名前なら分かるよ。⚪︎×屋ってところで板前してるよ」
僕「⚪︎×屋…?あ、検索したらありました。ここですかね?電話してみましょうか」
板前っつーからどんな店かと思ったらチェーンの居酒屋じゃねーか…なんて思いながらも手を動かします。普段だったらこんな行動力僕の中のどこを探してもないですが、人志に背中を押された僕の中の千原ジュニアに怖いものはありません。
隣で、いいのかい?いいのかい?でも、息子が怒らないかな…大丈夫かな…とブツブツいってるおばあさんを尻目に電話をかけました。
Prrrrrr
⚪︎×屋「はい。⚪︎×屋です」
僕「あ、突然すみません。△さんいますか?」
△「私ですが…」
不審がってる。当たり前だ。突然店に個人宛の電話がきたんだから。
僕「いま、△さんのお母様と一緒にいまして。どうやら道に迷ってしまったみたいなのでご住所教えていただけますか?おうちにご案内します」
△「え?本当ですか?」
僕「はい。ちょっと散歩してたら遠くに来すぎてしまったようで。お電話変わりましょうか?」
△「いえ、大丈夫です。家から出るなって言ってんのに、あのやろう…」
え?思ってたのと反応が違う。さっきからおばあさんが隣でブツブツ言ってたのってそういうこと?もしかしてこの息子やばいんじゃないか?まさかの怖い系?なんて僕もビクビクしました。
△「とりあえず、ありがとうございます。住所は〜〜〜。すみませんご迷惑をおかけして。よろしくお願いいたします」
僕「いえいえ。ではおうちにお連れしますね。すごい不安だったみたいで。差し出がましいようですが、あまり怒らないであげてください」
△「…。では、失礼します」
こんな感じで電話を終えました。息子怖すぎて、怒らないでとか言っちゃったけど、逆に逆撫でしたかなーと今は反省してます。
そしてこのやりとり。改めて見ると、なかなか詐欺っぽいですね。つーか、お年寄りと住所手に入れるとかかなり危ないですね。念のため言っておきますが、これは詐欺じゃありません。
で、住所をゲットしたのでスマホで検索しました。すると…
ここからめちゃくちゃちけーじゃねーか!!!
徒歩五分です。距離にして300メートルくらいです。おいおい、迷ったってどういうことだよ、バーさんよぉ!
なんて内心おくびにも出さず、微笑みながら
僕「じゃあ、いきましょうか」
と連れていきました。
この移動してる時は特に何もなかったんですけど、とりあえず僕は薄着で外に出たことと、300メートルくらいならすぐに着くから大丈夫だろと判断したことを呪いました。
とにかく、このバーさん歩くのが遅い。いや、このバーさんに限らず世の中に生息する大方のバーさんは歩くの遅いですよね。しかも、降り積もった雪のせいで足元悪いし、余計遅い。300メートルを1時間かけて歩いたのはこれが最初で最後です。
まぁ、道中はバーさんがずっとしゃべってくれたので飽きませんでした。
要約すると、
・東北の震災があってから何もかも変わった
・住み慣れた家を離れて、小さい家に住むことになった
・結婚している長男はどこ住んでるか分かんないし全然連絡くれないし、くれたと思ったら金をせびってくるし、孫にも会わせてくれない
・次男はどこふらついてるかと思ったら急に家に転がり込んできて、色々指図してきて怖い
・いつも家の中のリハビリベッドの上で1日を過ごす
・楽しみは窓から外を見ることと犬と遊ぶこと
・今日は久々に外に散歩に出たら迷った
うん。
重てぇ。
初めて会った学生に話すことじゃねぇ。
しかし、そんなバーさんの身の上話も尽きかけた頃、無事に家に到着しました。田舎の集合住宅って感じです。
いやー、長かった。
寒かった。
辛かった。
でもやりきった。
どうだい?人志。スベらんか?バーさんも良かったよ何事もなくて。俺もいい経験できたし。それじゃ帰ろっかな。
と、1人やりきった感に浸っていると、さっきから黙ってたバーさんが突然声をかけてきたんです。
「ありがとうねぇ。お礼したいから上がってき。上がってき!!」
え?何言ってんの?
続く。