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Evidence Based Physical Therapy - 理学療法士 倉形裕史のページ

脊損患者の歩行再建に関する論文:The New England Journal of Medicineに載っている 4例のケースレポート④

2018.10.24 16:19

おはようございます。University College London (UCL)の理学療法士の倉形です。理学療法士はリハ専門職のひとつです。 


脊損患者への硬膜外電気刺激を用いた歩行再建に関する論文に関して書いています。 


前回は、リハビリの方法に関して詳しく書きました。 


今日は結果に関して詳しく書きます。このシリーズ最終回です。 


最初に少しだけ確認.

 この研究で使われている評価バッテリーには完全麻痺が2種類あって・・・

①Grade A:傷害された高さより下位に感覚が全くない

②Grade B:傷害された高さより下位に感覚がある(程度は問わない) 

ざっくりと、同じ完全麻痺でもGrade Bの方が軽傷なのかな?位の理解でお願いします。 


結果

・2例(4例中)は補助具を用いて地面の上を歩行可能になった。  


・残りの2例はトレッドミル上である程度、振出しは可能になったが、地面の上では困難だった。


・全例は、硬膜外電気刺激のデバイスのサポートがなければ自力での下肢運動は不可能だった。  


・運動、感覚のスコアは前後で変化がなかった(症例3:Grade Bにのみ若干の変化を認めた)。   



各症例ごとに見ていきます 

症例1(Grade A) 

・発生機序が不明の股関節骨折を認めた。股関節骨折の一年後にトレーニングを再開した。 

・62週間で176セッションを行い、歩行器を用いた立位保持を獲得した 



症例2(Grade A) 

・14週間で40セッションを行った後、60%免荷で片方の足が振出し可能になった。トレッドミルのスピードは0.22m~0.67m/秒だった。 

・62週間で159セッションを行い、自力での座位保持、歩行器を用いての立位保持が可能になった。 



症例3(Grade B) 

・36週間で160セッションを行い、35%免荷でトレッドミル上で右足の振出しが可能になった。 

・85週間で278セッションを行い、介助下で地面の上を歩くことができるようになった(硬膜外電気刺激のデバイスを使いながら、介助者が二人で棒を持って、平行棒の様にして歩いています)。 

・歩こうと意識しないと足を振り出すことができず歩くことができなかった。 

・90.5m連続で歩行可能で、1時間のセッションで362m歩くことができた。

 ・最大歩行速度は0.19m/秒で疲労とバランスの崩れによりスピード、距離共に制限されていた 




症例4(Grade B) 

・1週間で5セッションを行い、50%免荷でトレッドミル上で右足の振出しが可能になった。 

・141セッションを行い、歩行器を用いて地面の上を歩くことができるようになった。 

・50分間連続で、ゴムバンドを軽く握るだけで立位保持が行えるようになった。 

・上肢のサポートなしで7~10秒自力で立位保持ができた 



こうして詳細をみると、非常に長期間にわたって、濃厚な治療を加えられても、さらにデバイスを用いても実用的といえるレベルの歩行ではありません。距離も速度も(*_*; 


センセーショナルに伝えるメディアやアブストラクトによって「凄い!!」と反応する前に、落ち着いて少し中身を吟味する習慣を持ちたいです。 


でも、こういう取り組みはホントに大きな一歩だと思います。それに屋外歩行としては不十分でも、屋内での移動ができるようになるのでも患者さんにとっては、非常に有意義だと思うし、今後の発展に期待したいですね(^^♪ 



以下は私見です。 

『歩行を行うことを意図しないと歩けない。』当たり前だろ!!と言われそうですが、リハビリ界隈では、歩行は高度に組織化された運動なので、実は脳は歩き始めてしまえばそこまで頑張らないというか、脊髄にあるセントラル・パターン・ジェネレーター(CPG)というのが制御していると言われています。特により低次の生物ではCPGの影響が大きいです。 なのでこの研究チームは『歩行を行うことを意図しないと歩けない。』ということを強調したのだと思います。

ですが、課題が難しすぎるのか、ヒトの歩行では、CPGはそこまで重要な役割を担っていないのかそのあたりはこの研究からは分かりませんが、この辺りも興味深いですね(^o^)/ 


この論文に関する話は今回で終了です。


 今日も、最後までお付き合い頂きありがとうございます。

 理学療法士 倉形裕史 






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