第27回 視点を変えてみる
視点を変えてみる
創作に行き詰まったら、視点を変えてみるのも一つの方法です。
俳句の「じゃんけんで負けて蛍に生まれたの」は俳人である池田澄子さんの有名な一句です。口語表現の擬人法で作者独自の世界観が一七文字に凝縮されています。
蛍に生まれ変わった女の子が、こがね虫にそっと打ち明けるシチュエーションとしても一つのメルヘンが成立する気がします。 この場合打ち明ける相手が美しい羽の蝶々なら主人公の「蛍」自身がぼやけてしまいます。かといって、カブト虫は大きすぎます。テントウ虫でも良いのですが、地味なイメージがある、こがね虫あたりが妥当といえるでしょう。
俳句からでも童話のタネになるアイデアを見つけることができるということです。
童謡、唱歌、フォークソング、懐メロの一フレーズからでもインスピレーションが浮かぶこともあります。アニメや実写映画からも同じことがいえます。
日頃から創作意欲を高めてさえいれば、子ども同士の会話からでもハッとした思いつきが得られるものです。特に、子どもの詩や作文にも、隠された素晴らしい感性が発見できます。常にアンテナを張りめぐらせて下さい。
擬人化は子どもだけではなく、大人にも受け入れられる手法なので想像力が限りなく広げられるといってもいいでしょう。
カフカの代表作「変身」は、男が朝目覚めると自分が一匹の虫に姿が変わっていることに気づく不条理文学です。童話に応用すれば男の子が飼っていた犬に変身する設定でしょうか。おとなしかった犬が、やたらと吠えはじめた謎が犬の視点になって初めてわかる……というものでもいけそうです。
視点を変えることは、主人公の年齢を変えてみることでもあります。人間の記憶は不思議なもので、母の胎内に宿っていた記憶を持った子どもがいる事例もあります。
そこまでではないにしろ、私は二歳ぐらいの時、ベージュ色した小さな犬のヌイグルミを片身離さず抱えていた記憶があります。 姉の持ち物だったかもしれませんが、ヌイグルミがないと一日中泣いていたことをはっきりと覚えています。
一九六一年にベストセラーになった育児書は「私は二歳」松田道雄著です。赤ちゃんの視点で家族が育児に翻弄される姿や大人の慌てぶりをユーモラスに描いています。
作者が小児科医であることで二歳児の視点で考え、パパとママを見つめる眼差しが説得力をもって伝わってきます。映画にまでなりました。実写ですが、赤ちゃんのイメージをアニメやコマ撮りで表現しています。ネットで配信していますのでご覧下さい。乳幼児や二歳児が主人公の童話のアイデアが見つかるかもしれません。
浜尾
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