第5章 その6:「リハビリと指輪事件」
(―――あ、天井だ…。そうか、病院… 手術…終わったんだ)
気がついたら夜中だった。
身動きができない。どこというわけでもなく、全身に痛みを感じた。
ベッドの脇に看護士さんがやってきて、何かを確認して去っていく。
目を閉じても、眠れなかった。夜の長さって残酷だ。
またパタパタと足音がして看護士さんが現れた。どうやら、一時間ごとに数値を確認してくれているらしい。
左胸...大きな傷跡ができているんだろうな。いびつで不自然な形になっているかもしれない。そんなことも考えたけれど、どうでも良かった。
「私の体の中にはもう、がん細胞はないんだ」そう思えるだけで、ただ、嬉しかった。
朝が待ち遠しかった。
ずっと気になっていることがあった。結婚指輪だ。手術の前、外して棚に置いたことは覚えているものの、その後、見ていない気がする。ちゃんとこの目で確認できていないことが不安で仕方なかった。
朝が来れば気が紛れると思っていたけれど、全然そんなことはなかった。何もすることがなく体も動かせず、麻酔を点滴で受けながらじっと横たわっていなければならないのが辛かった。咳一つするだけで再建のため切り開いたお腹が崩壊しそうなくらい痛い。でも、夫や両親たちと病室で会えることは心が救われる思いだった。
12月24日、世間はクリスマスイブ。
私にとっては、リハビリスタートの日だった。まずはDVDを観て、リハビリの概要を頭に入れてから、ベッドから起き上がる…はずが、お腹の傷が痛くて立ち上がれない!リハビリの先生に励まされ、なんとか腰を浮かせるところまでは頑張ったけれど、力の入れどころがわからず立ち上がれなかった。
そりゃそうだよ、だって手術から3日しか経っていないのだから…けれど、それを見ていた尾田平先生は…
ひとつだけ小さな幸せがあったとしたら、病院のごはんがクリスマス仕様だったこと。なんとメッセージ付き!ほとんど食べられなかったけれど、ささやかなクリスマス気分を楽しめた。
デザートのチョコレートケーキを、半泣きでちょっとだけ食べた。ほろ苦かった。
翌日。クリスマスの日。
世界中の子どもたちがサンタさんからのプレゼントに浮かれ喜ぶ、幸せな日…のはず。私は引き続きリハビリだ。なんとかベッドから立ち上がった私に、歩行器が与えられた。夫はこれを「あんりバイク」と(勝手に)命名。
夫は、私がお手洗いに行く時など歩行器に手をかけると、小声で「ブンブン」と言ったりしておもしろがっていた。それが可笑しくて笑うと全身が痛いのだけれど、ふしぎなもので、精神的な活力が湧いてくる。
気持ちが楽になると体も元気になろうとするのか、手の甲の点滴や尿管を外してもらっても大丈夫になった。
そして、その日の夜、あれほど心配していた結婚指輪が見つかった。というか、夫が見つけてくれた。
あまりにも私が「ない!ない!」と騒いだから、昼間、わざわざ購入したお店へ行って再購入の準備(覚悟?)をしにカタログをとってきてくれた夫…いやあの、見えんかったんよ...はは...ごめんなさい(TT)
新品より何より最高のクリスマスプレゼントをありがとう!