クテノポマとは
クテノポマは全ての種がアフリカの熱帯地域に生息し、特に西アフリカから中央アフリカの河川、湖沼等に生息している。その生物学的な分類は以下の通り。
アナバス(キノボリウオ)目(Anabantiformes)
アナバス亜目(Anabantoidei)
アナバス科(Anabantidae)
クテノポマ属(Ctenopoma)
クテノポマ属の仲間は現在11種が正式な学名として記載されている。それぞれ外観や性質が異なるが、基本的には派手さを持たない地味な熱帯魚だ。最大のもので、全長はおよそ25㎝、最小のもので10㎝程度の魚であり、特別広い環境でなくとも飼うことができる。同種同士、または姿形の似た種同士での小競り合いはたまに見られるが、それを除いた他種に対しては攻撃的な面を見せることはほとんどない。また、非常に頑健であり、適切な環境を維持していれば、病気への耐性も高いようだ。これらのことから、私の個人的な印象としては、非常に飼いやすい熱帯魚であると言える(と言っても、その他の熱帯魚の飼育経験はあまりないが…)。
ところで、「クテノポマ」って変な名前だとは思わないだろうか?私も初めて耳にした時はなかなか覚えることが出来なかった。この「クテノポマ」は和名がない為、日本国内で鑑賞魚として流通する場合にも、元々の学名をそのまま用いているのである。
"Ctenopoma"の学名は"cteno"=櫛、"poma"=覆われた、という意味を持ち、体表を覆う櫛鱗(一端に小棘を有する鱗)と、主・前・下・間鰓蓋骨の全て、またはいくつかの縁が棘状及び鋸歯(きょし)状になっていること、並びに、背鰭・臀鰭に鋭い棘条を有する事に由来する。
このような特徴以外にも、クテノポマを語る上で欠かすことの出来ないものとして、「ラビリンス器官」というものがある。これは、通常の魚が持つ鰓に付属している器官であり、その構造が迷宮のように複雑であるが故にこの名前がついている。これがあることにより、他のキノボリウオ目(一部を除く)の魚と同様に、溶存酸素量の低い水域でも空気呼吸によって繁栄を可能としている。飼育下でも、種によって差はあるが、水面まで上がって口から空気を吸い込み鰓から吐き出す様子が時折見られる。ラビリンス器官は「上鰓器官」とも呼ばれ、上述の通り、水呼吸の為の通常の鰓に付随している器官であるため、空気もこの鰓を通す必要があるのである。
その他、クテノポマの基本的な形態的特徴を以下に挙げる。
【体型】
体高が比較的高い「deep-body group」と、体高の低い「shallow-body group」に分かれるが、基本的には紡錘型(円筒型)の体型をしている。
【吻】
反るように尖っているもの、直線的なもの、丸みを帯びているものの3パターンに分かれる
【鰭】
背鰭、臀鰭には棘条(背:14~19、臀:7~11)がある。尾鰭の型は円形~截形(せっけい)の中間型。腹鰭は短く、臀鰭の基部に達しない。
【顎】
前方へ突出可能。その程度には種によってかなりの差がある。
【歯】
円錐歯(先の尖った錐状のもの)」である。
【側線】
前端から後端に至る中間地点で中断され、段違いになる“stepped linear type”という線型をとる。
クテノポマ属は、上述したとおり、最小の種でも全長10cmを超えるが、クテノポマ属と同じくアフリカ大陸に生息するキノボリウオ目の熱帯魚に、「ミクロクテノポマ属」という比較的小型の仲間たちがいる。この属と現在のクテノポマ属は元々ひとつの「クテノポマ属」であった。しかし、1995年にS.M.Norrisにより、次の基準を元に新たにミクロクテノポマ属に分類されたのである。
1.頭部感覚器官(頭頂孔)開口部の数
2.側線鱗数
3.腹鰭の長さ及び着色の有無
4.交尾時に雌を刺激する眼後部接触器官の有無
5.主鰓蓋骨の鋸歯の有無
6.尾鰭の鰭条数
7.性的二型性発達の程度
現在、巷では、「全長10cm未満の種がミクロクテノポマ属に分類された」とされることが多いが、それは上記の形態的特徴を分析して分類した結果そうなっただけであり、決して単純に全長だけで分けたものではないことに注目しておきたい。また、現在では、核学的な研究により、両者の核型は明らかに異なり、クテノポマ属はより原始的な硬骨魚類に見られる核型の特徴と合致していることがわかっている。また、両者は繁殖形態も大きく異なり、ミクロクテノポマ属が泡巣を作り、親が卵を保護するのに対して、クテノポマ属は、それらを行わないバラ蒔きタイプの産卵を行うとされる。
以上、とりとめもなくクテノポマについて紹介してきたが、何故、このクテノポマという熱帯魚が私を魅了して止まないのか。そのあたりについて、クテノポマ属それぞれの種について紹介していく中で、ここを訪れた方々に理解して頂けたら有り難く思う。
さるびん