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イノベーティブな組織

2018.10.30 09:54

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 経済紙誌において、企業組織のあるべき形態やリーダーシップ論の新しい考え方に関わる記事が、特に先月以降散見されるようになった。いずれにも共通する前提となる文脈は、新しい知と知の組み合わせによる「イノベーション創出」があらゆる企業に求められているということだ。それは、企業の「組織論」をアップデートすることなしでは、イノベーティブな思想が育まれにくい時代であることを示唆するものであった。従来良しとされていた「均質性」を帯びた組織では、意思疎通がしやすい反面、創造性に欠けるという指摘に基づくものだ。


 日本企業に求められている組織づくりの考え方といえば、「ダイバーシティが重要」とするものが一般化してきている。しかし、ダイバーシティの目的を「管理職における女性比率◯◯%の達成」などと勘違いされ、ダイバーシティのためのダイバーシティに陥った本末転倒状態と捉えられる日本の企業は少なくない。ダイバーシティは女性活躍推進と同一ではない。性別は多様性のひとつに過ぎず、年齢や国籍、宗教、知見や性格だって含まれる。ただ、女性の「活躍」が先進諸国と比較して日本が遅れているが故に、女性活躍がダイバーシティ経営の起点に成り下がってしまっているのだろう。


 先述の報道に、「ホラクラシー」型の組織形態を選択する企業が増えてきているとあった。アメリカの民泊仲介「エアビーアンドビー」やアマゾン傘下のネット通販「ザッポス」が採用したことで注目され始め、日本では、ネット広告やゲーム配信を手がける「面白法人カヤック」が導入していることでも知られている。明確な定義はないが、肩書に基づくピラミッド型の「ヒエラルギー」型組織とは異なり、上下関係のないフラットな組織形態のことを指すとされる。社員全員での情報共有が前提のため、比較的小さな組織に適しているとされるが、「ザッポス」は従業員が1500人を超えるものの「上司が存在しない組織体制」を取っている。


 一方、別の記事によれば、「リーダーシップ」の意味が大きく変わりつつあるという。権限や役職に紐づくものと考えられていたリーダーシップだが、最近では「権限が無い人もリーダーシップを発揮した方が組織全体の成果が上がる」という考え方が急速に広がっているというのだ。日本より20年ほど早くこの変化が始まった米国では、政治経済情勢の激変を受け、環境変化に迅速に対応するためには組織をフラット化して命令系統を短くし、さらに権限を下位に移譲するようになり、ついには権限と関係無くリーダーシップを発揮すべしという思想に至ったという。


 いずれからも読み取れるのは、「社員の熱意を引き出す」あるいは「権限と無関係に積極性を奨励する」ための施策であり考え方であるという点だ。これらは何も企業だけの話ではない。先般、共同研究を行う大学助教から伺った、福島県内の高校生の話を思い出した。当該高等学校では「高大連携」が機能しており、県内の大学教員による高校生への「教育」が施されているが、「指示待ち」態勢の高校生は少なく、あらゆる活動に主体的・自発的に取り組んでいるそうだ。震災を経験した成長過程の学生である特性が手伝っているのかは不明だが、その能動性はある意味鬼気迫るものを感じさせ、学びに対する「責任感」を果たしているかのようだったという。自ら様々な提案を上げてくる高校生とそれを見守る大学という構図は、「ホラクラシー」型組織とフィットしている印象だ。


 では、こうした学生が「ヒエラルギー」型組織の一員となった場合、彼らのモチベーションはどのように作用するのだろう。入社間もない部下が部署内でリーダーシップを発揮しようとしたとき、果たして上司はどう受け止めるか。「会社のことを何もわかりやしない立場で、要請もされていないのに提案したり意見を言ったりするなんて、とんでもない!」と返されるのが関の山だろう。だがその一方で、企業の人事担当が「リーダーシップを発揮できる社員が欲しい」と学生に発信するところは少なくない。新卒採用のタイミングで学生のリーダーシップを重視しているわけだ。この人事担当も「何もわかりやしない立場」なのだろうか。


 デジタル変革は、なお一層企業組織のあるべき形態やリーダーシップ論の変化を促している。これまでの常識がほとんど通用せず、いかに「生存」できるかの方法が問われるなか、いかに社員のモチベーションを高め、真の一体感を育めるか、精神論や風土醸成といったカルチャー変革を「ヒエラルギー」型に押し付けるだけでは企業は社会に受け入れられにくいステージに入った。





TOPIC:A

「ホラクラシー」組織、躍動
2018.9.11(火)日本経済新聞より抜粋

上司や部下も命令も階層もない企業が東証1部に登場した。「ホラクラシー」などと呼ばれ、指示を受けず自分で考え自分で動く自律型スタイルだ。会社法で必要な取締役などに加え、CEO(最高経営責任者)、CFO(最高財務責任者)は置くが、それ以外の肩書は基本的にはない。出世・昇進という概念もない。




TOPIC:B

変わるリーダーシップ
2018.10.25(木)日本経済新聞より引用

かつての上司は若手の提案を歓迎しなかったかもしれません。しかし今は、企業環境が激変しイノベーションが強く求められる時代で、部下のリーダーシップは不可欠です。自分が若手のときに提案を受け入れてもらえなかったからといって、今度は若手の提案を潰す側に回るのではなく、新しいリーダーシップの考え方に基づき、今の世代で悪しき慣行を捨て去る必要があるのです。