懐かしい気持ち
動物園のゲートのような門の前で私は車から降りた。
「自由に観て来てください」フレデリックが淡々と言った。フレデリックは庭を散歩するか
のように別の方向へ歩いて行った。
この門を潜ると生家があるのだなと私は期待に胸を弾ませた。しかし門を潜ってもそこには
生家が全く見えて来ないではないか。
私は、かなりゆっくりとした足取りで門から生家までの長いアプローチの道を歩き出した。
すると白い生家が木々の合い間からやっと目の前に現れてきた。
近づくにつれてなぜだか懐かしい気持ちが私の中によぎった、アプローチから家までの距離
感とだんだんと見えてくる屋根がそうさせるのか、
外壁は清楚な白、屋根は白壁を覆うように濃いグレーの微妙なカーブを見せる造り、
玄関ポーチは、二本の白い柱で庇を支える
扉の向こうには木目の世界が生家である。
中へ入ると窓やその止め金具は、シンプルで味がある出来栄えで外からの光を柔らかく室内
に取り込んでいる。
それにしても、どこを観ても綺麗だ、改装したためであろうか。
私は古い時間を感じタイムトリップしたいのだ。
彼のピアノは中程の部屋にあった。木目の外装でチェンバロのような角ばった形だ。
鍵盤は象牙で並びが平らに均一でない、黄ばんでいてひび割れた個所が見受けられる。
それを見つめていると長い宇宙のような時間を感じることが出来る。
そのピアノはもう彼を待ってはいない、私はそのピアノの世界の中に入り込みたく鍵盤にそ
っと手をかざしてみた、私の心の中にショパンの夜想曲が静かに流れてきた。
彼のピアノはもう一台あった。縦型でまるでインテリアのようにも見える。
玄関から屋根裏部屋へ通ずる階段の先は、ほの暗くみえない。
しばらく部屋の中から、手入れの行き届いた庭を眺めた。
そろそろ庭を歩いてみよう。
外に出るとショパンの像がある、そこを抜けるととても大きな樅ノ木に出会えた。