半歌仙「雪ちるや」の巻 連句解説 2
連句解説の続きです。
雪ちるやきのふは見えぬ借家札 一茶
寒も明けぬにほのと梅が香 弘至
鳶の輪をいくへに空は深むらん 隆子
以上が発句、脇、第三でした。
続いて第四。
月清らかに小貝を照らし 淳子
月の句です。
小貝というのは「ますほの小貝」です。
この付句により、敦賀の色の浜に景が定まります。
ご承知のとおり、芭蕉が奥の細道で訪れた場所です。
(敦賀観光協会より)
ちなみに連句には「月の定座」、「花の定座」があり、
それぞれ月と花を決まったところで詠まなくてはいけません。
ほんらい「月の定座」は第五ですが、状況に応じて動かすことができます。
第三で「空」が出ましたので、その流れで前倒ししました。
仮にここで月を詠まなかったとすると、
第五でふたたび空を詠むことになり、どうしても第三と似た景になってしまい、
大きな支障をきたしてしまいます。
そのため第四で月を詠んでいただきました。
連句では「打越」(前々句)と同想、同景になることを嫌います。
そうした悪い状態を「観音開き」ともいいますが、
芭蕉が「歌仙は三十六歩也。一歩も後に帰る心なし」と述べているように、
後戻りすること、繰り返しになることを嫌うのです。
連句を巻く際には、常に打越(前々句)、前句、付句に気をつけなくてはいけません。
これを「三句の渡り」といいます。
逆に「三句の渡り」にさえ気をつけていれば、それなりのものが出来るともいえます。
寒も明けぬにほのと梅が香 弘至
鳶の輪をいくへに空は深むらん 隆子
月清らかに小貝を照らし 淳子
色の浜の景を定めることができました。
新米の出来上々と知らせあり りえこ
第五です。秋の句。
打越、前句がしみじみとした句でしたので、
押し出しのいい句で流れを変えていただきました。
月清らかに小貝を照らし 淳子
新米の出来上々と知らせあり りえこ
実りの秋になりました。
第六。あれこれ制約の多い表六句の締めになります。
文化の日とて特になかりし 洋子
多くの人がたんなる休日とだけしか認識していない「文化の日」。
そんなことも踏まえて皮肉を効かせています。
月清らかに小貝を照らし 淳子
新米の出来上々と知らせあり りえこ
文化の日とて特になかりし 洋子
前句の押出の良さに対して、あえて肩透かしを食わせて付けたような形です。
うまくオチがついたところで、表六句が終了。
続きはまた明日。