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砕け散ったプライドを拾い集めて

学生アルバイト

2018.11.03 11:57

【ショート・エッセイ】
※友人の学生時代のアルバイトの話に刺激を受けて、ちょこっと自分のことを……。

学生のアルバイトといえば定番の「家庭教師」は4年間ずっとだった。
その傍らで種々雑多なアルバイトを……十指に余るくらいはやった。(省略)

「家庭教師」に次いで長いものは、新宿の百貨店地下食堂の厨房……つまりコックの下働きだった。
その頃は飢えていた。比喩ではなく、いつも腹を空かせていた。それを十分に満たしてくれる誠にありがたい職場だった。
朝早く行ってとりあえず缶詰類を開けるのだが、その業務用の大きな缶詰の半分くらいは自分の胃袋に直行していた。栗とかみかんとか蟹とか……。そしてランチも、駆け出しのコックのお目こぼしで、「カツ丼」、「八宝菜」とか「蟹コロッケ」などの貧乏学生には夢のようなメニュー。そして、閉店時間になったとき、結構な量が残る。放っておけば残飯として豚屋が取りに来る。それを豚の口に入る以前に、われわれ貧乏学生の口に運ぶのだ。

その職場に、そのデパートの紳士服売り場でアルバイトをしている同じ学校の剣道部の男が、ときどき訪ねてくる。いわゆるイケメン。このデパートは年に4回ボーナスが出るほど景気良かった。その売り場の女性たちも羽振りがいい。その彼女たちにいろんな意味で……可愛がられているらしい。それをさりげなく自慢しにくるというワケだ。そーかい、そーかい。
そいつは実家が東京だから、それでもいい。こちらはとにかく糊口を凌がなければならん。色気より食い気だ。

だとしても、我が方にも女っ気は十分にある。洗い場などのおばさんと中学卒の若いウエイトレスと二極分化しているが、山のようにはいる。
おばさんにはよく揶揄われていたっけ……。赤面するとさらに追い討ちを掛けてくる。
一方、雀の群のようにいるウエイトレス。彼女たちとお茶くらいは何度かは行ったが、〝まだ勉強していていい時期に、健気に働いて〟という憐憫の情の方が優ってしまって、色恋の沙汰にはならない。会話しているときに「それなんという意味?」という質問でノッキングを起こすことも、そのようにはならないストッパーの役目になっていたんだね、きっと。

よくアルバイトの経験が貴重な経験になったという人がいる。そんなことはない。食べ物屋や食堂ビジネスにでも進んだわけではないし、配送業でもなく、ペイント業に進んだわけではない。だから、何にも役には立たなかった。「社会勉強」ができるという人がいる。純粋に学生をやっていても、想像力させ研ぎ澄ましていたら、社会勉強なんかできる。下世話な「人つきあい」ってか?そんなものは社会に出れば否応無しに習得せざるを得ない。
学生のうちは、学生じゃないとできないことをしていた方が、トータルで豊かな人生を得られるって。

後年、アルバイトを使うことにもなったが、「社員に対して要求するレベル」と「アルバイトに対して要求するレベル」は全く異なる。
そのハンディキャップ・レースのなかで業務を分かった気になっても困る。社会や会社を分かった気になっても困る。いやいや、こちらは特段困らない。困るのは「学生さん」キミの方だ。