知らないということ。待つという丁寧な優しさ。『ほんをひらいて』
-知らないということ。待つという丁寧な優しさ。-
『ほんをひらいて』
文:トニ・モリスン&スレイド・モリスン 絵:シャドラ・ストリックランド 訳:さくま ゆみこ/ ほるぷ出版
本を読むこと、それは想像力や知見を得ること、語彙力を高め表現力を向上すること等々、
人生を豊かにする「いいこと」だと、きっと誰もが思うように、私もそう思う。
この絵本も、本をひらくこと、読むことで素晴らしいことが待っているよと伝える本だろうと思っていた。
もちろん、「それ」はある。
「それ」は、終盤にでてくる。
『本は開かれるのを待っていて、探検したり考えたり夢見たりするのを手伝ってくれる・・
広い世界が見えてくる・・
つらいことも忘れられる・・
不思議なこと、素晴らしいことがいっぱい詰まっている
・・・
そして、くらい気持ち、こわい気持ちがちいさくしぼんでしまったね』
ただ、
私はこの絵本の素晴らしさに感動したのは、
主人公のルイーズが本に出会うまでにある、問いかけの連続がもつ優しさだ。
『天気が悪いと気分も暗くなるかも・・でも、世界は広いしいいことがあるかもしれないよ。
どんよりした空もそのうち晴れる、雨もそのうちあがる、晴れたら、ここでも小鳥が歌うよ。
せかせかいそがないで、ハーモニカの素敵な音楽が聞こえるよ。
お化け屋敷に見える家も、手入れをすればきれいになるよ、ここで楽しく暮らした人もいるはずだから。
ただのゴミ捨て場?それとも怪物やゆうれいが住んでいる?知らないと怖くなるよね。
高いところから鳥がにらんでる、でもあれは屋根の飾り。お日様がでたら金色に輝くよ。
・・・
そして、図書館に着くと、ここまでくればだいじょうぶ、もうひとりぼっちじゃないからね。』
この一つひとつの問いかけにあるのは、
「知らないとこわいよね、知らないと不安に思うよね」という寄り添い。
この寄り添いを感じさせてくれるのは、
「不安だよね」が、いくつもあること。
本の「それ」の前に、いくつもの共感があって、
少しずつ、少しずつ、心を溶かしている。
たくさんあることに、この本の丁寧さと優しさを感じるのだ。
丁寧に、
『待つ』という優しさ。
そして、
読み終えたあとには、
知らないが故に潜む不安より、
未知であるが故を、可能性として肯定的に感じられるのだ。
丁寧な「待つ」の過程、
あたたかい、神様や仏様のような優しさについて思いを馳せた。