突きについて-2/尺骨と撓骨:尺骨筋肉群と撓骨筋肉群のコントロール
2007.12.01 06:53
あるマーシャルアーツの専門家に、「空手の突きは、拳、手首に負担が掛かるだけで怪我の元になる。だからパンチは、中指・薬指・小指を当てなければならない」と、言われたことがあります。
長年「中指を基点に、中指・人差し指側を当てる」と指導してきた私は、「空手は基本的に相手にとって遠間(ロングレンジ)から攻撃する技術です。ですからその突きは直突き(ストレート)を基本とします。但し、当たり(目標)との間合い(距離)、角度や調子(タイミング)で中指・薬指・小指側を当てることもあります」と答えました。
別な言い方をすれば、その先生は「尺骨側で打て」と言っている訳です。それは、近間(ショートレンジ)や中間(ミドルレンジ)なんですね。大概の格闘技は、そう云った間合いの戦いになりますから、当然なご意見です。
しかし、それは空手とは違うんですね。空手は「撓骨で抜け」です。
所謂昨今のマーシャルアーツ系と違って、刀や槍を持った相手との闘いを想定した技術ですから、基本は遠間からの攻撃です。遠いということは、その分、相手に良く見られて、相手が反応しやすいということです。ですから足使いも、筋肉での飛び跳ね(上下動)のない摺り足で入る稽古をするわけです。上下動するとそれは面の動きの映像になりますから、相手にしっかりと反応されてしまいます。映像に極力変化を加えない攻撃で、相手の脳に0.0数秒の反射の遅れを起こさせて先手を取るわけですね。
足捌きについては、別項を設けます。
さてこうした遠間合いからの攻撃になりますから、打突ポイントを ① 一点に圧力を集中させて、② 真っ直ぐに、③ 打ち抜く技術 にしなければなりません。その為に、突きが「上ずったり」「流れたり」「ズレたり」せずに、「きれいに目標を抜いていく」ように、撓骨側の筋肉群をコントロールしなければなりません。
空手の直突きは、「突きについて-1」で記したように、中指の基節骨上部関節付近を打突ポイント(以下『打突ポイント』)にしますが、それは撓骨の延長を意味します。
人指し指だと手首が小指側に曲がりますし、薬指だと親指側に曲がります。
脇に構えた基本の突きも、-1で記した打突ポイントが撓骨の延長にあります。
撓骨側筋肉(腕撓骨筋)が、ラインを維持します。
突きの出始めであるこの時点は近間ですから、腰と胸(二軸)で突きます。
その撓骨~打突ポイントが、一直線に伸びていきます。
これは、中間です。腰と胸が入り、脇が絞まります。
打突ポイント~撓骨~肩甲骨のラインがショックアブソーバーの役目をしますし、目標に対しては力みを抜いて体重を乗せる役目を果たします。
遠間への突き、或いは打ち抜いた状態になります。腰、胸、肩甲骨が入ります。二軸がスライドして、捻りはしません。
全ての突きは反射で引きます。作用~反作用の法則でエネルギーが増幅します。
因みに腕撓骨筋は、撓側手根屈筋で人差し指、中指と繋がっています。
打突ポイント~撓骨ラインを伸ばしながらも、尺骨側筋肉群に力みの入るタイプや他の指のラインに力みが入りやすいタイプは、
尺骨側で回転しますから、
掬い上げる突きになって、打突ポイントがズレます。目標に圧力が掛かりません。撓骨~肩甲骨のショックアブソーバーも効きません。
因みに尺側手根屈筋手根伸筋は、小指側に繋がっています。ですから、尺骨側を使えば小指側に回転軸が移るのは当たり前なんですね。すると尺骨側筋肉群は回転しながら下向きになりますから、腕が跳ね上がるわけです。
直突きは、槍のイメージです。
槍の突きは、うねったりしません。
切っ先は、回転しながら目標に向かって真っ直ぐに伸びます。
最後は、遠間をストレートに突き抜きます。
切っ先がズレれば、突き抜くことはできません。
再度記しますが、空手は遠い間合いからの攻撃技術です。ですから、近い間合いも中間の間合いも、遠間に対する突き技法(ライン含め)を基準にします。
逆に、直接打突制の空手や拳法系あるいはマーシャルアーツ系が近間で勝負します。その為の突き技法を稽古するが故に、遠間に対して突くと脇が空いてしまいます。
空手では、肘が、脇前に出るまで脇を擦り続ける感覚を稽古します。こうすると、近間に対しても体ごとの、体重の乗った当たりになります。
因みに、近間とはほぼ体が接触する間隔、中間は双方の構えた前拳が20~50cm程度空いている位、遠間は前拳同士で言えば50cm~1m程度空いている距離をイメージしてください。
(2011年12月)