Creative Neighborhoods 街と住まい「湘南邸園文化 」
第 3 回
邸宅と庭園による湘南のライフスタイル
茅ヶ崎館 明治・大正・昭和・平成の歴史を伝える日本旅館 写真提供:茅ヶ崎館
今や、閑静な魅力ある海沿い住宅地ブランドとして名高い、「湘南」。どこからどこまでが湘南なのか論争になるほどの人気である。本来は、「相模国南部」の意味であるが、風光明媚な中国の湘江下流部から湘の字をあてたといわれており、逗子に住んだ徳冨蘆花の随筆集《自然と人生》(1900)でその風景がたたえられてから著名となったらしい。また、明治初期、岩倉使節団らが視察したロンドン郊外の海沿いの保養地・別荘地ブライトンが、湘南地域の風景と酷似していたために、別荘地・保養地としての湘南地域形成のモデルになったともいわれている。
明治期以降、首都圏で活躍する政財界人・文化人らの滞在・保養・交流拠点として人気を博し、豪華で魅力ある邸宅や庭園が並ぶとともに、美術、文学、音楽、スポーツなどのさまざまな文化の発信・蓄積の地として栄えてきた。
そんな歴史・文化を育んできた湘南地域の中でも、特に、人々の心に残る歴史の深い「邸宅」と、緑あふれる「庭園」を一体的にとらえて、官民協働で保全活用し地域の活性化につなぐ「邸園文化圏再生構想」の一環として、2006年から「湘南邸園文化祭」という取組みが進められている。各地のNPOや地域住民を中心に、ガイド・ツアーはもちろん、邸園を使ったコンサートやティーパーティーの開催など、新たな文化発信や地域住民と来訪者の交流の場が、同時多発的に展開されている。
2018年も、旧黒田長成侯爵別邸である清閑亭(小田原市)、旧モーガン邸庭園(藤沢市)、小津安二郎の定宿としても知られる茅ヶ崎館(茅ヶ崎市)を始めとして、多くの邸園で文化的活動が用意されている。同時に、明治元年から150年目であることを記念して、旧伊藤博文邸である滄浪(そうろう)閣を始めとした邸園エリアで、明治記念大磯邸園の整備が予定されている。
「邸(宅)+(庭)園=邸園」構造のような豊かな暮らし方の種は、湘南以外の地域にもたくさん眠っているはずである。各地域で、お気に入りの邸園を探す、あるいは、自らアレンジした邸園生活を採り入れてみてはいかがだろうか。
湘南邸園(=「邸(宅)」+「(庭)園」)文化のイメージ図。湘南の海沿いに位置し、海への眺望や光・風を感じながら、建築物と庭園空間を一体的に用いる豊かな文化が育まれている
小田原文学館本館と庭園の融合(旧田中光顕伯爵別邸)
野原 卓
横浜国立大学大学院都市イノベーション研究院准教授。東京大学助手・助教を経て現職。横浜市の都市デザインや大田区モノづくりのまちづくりを始め、現場とデザインをつなぐ都市デザインマネジメントなどの実践・研究活動を展開。著書に『まちをひらく技術』(共著・学芸出版社)『アーバンデザイン講座』(共著・彰国社)など。
茅ヶ崎館、明治・大正・昭和・平成の歴史を伝える日本旅館。
写真提供:茅ヶ崎館
清閑亭、近代日本議会政治の功労者である黒田長成侯爵が別荘として建設。
写真提供:小田原市(文化部 文化政策課 文化政策係)
清閑亭の和室(旧食堂)から眺める庭園の風景
写真提供:野原 卓(横浜国立大学大学院都市イノベーション研究院)
清閑亭の2階から庭園と湘南の海を眺める
写真提供:野原 卓(横浜国立大学大学院都市イノベーション研究院)
湘南邸園文化祭では様々なイベントを企画されている。(大磯迎賓舘)
Photo: Koji SAWADA
写真提供:湘南邸園文化祭連絡協議会