京山幸太 「パンク侍、斬られて候」三本勝負2nd(2023年10月号より)
―「パンク侍、斬られて候」の話からお願いします。前回から、定番ネタにブラッシュアップする試みが始まりましたが、今回に向けて変えた部分はありますか。
幸:はい、台本の書き直しはもうやっていて。ベースはいっしょですけど、内容足したり、削ったりしてます。
―特に直した部分を教えてください。
幸:前の公演で太遊兄さんから言われた、腹ふり党の踊りをお客さんも巻き込んで踊るとか、腹ふり党の説明と人物整理をどうするかが大事やと思っていて。腹ふり党を言葉じゃなくて、構成と演じ方で視覚的に分かるように変えたのと、登場人物を一人減らして、できるだけスッキリするようにしました。まだもうちょっと、できる事はあるんじゃないかなと思ったりもするんですけどね。
―アンケートでは登場人物が多くて混乱したと言った声もありましたね。
幸:小説が原作やから、どうしても登場人物は多くなってしまうんですよね。浪曲って本当に登場人物少ないんで。パンク侍ももっと減らせるかもしれないんですけど、今の自分のアイデアではそこまでいかないんですが、それでもだいぶ整理はしました。主に前編ですね。33分くらいあったんですけど、25分くらいになりました。後編は出臼を工夫したり、節の部分と啖呵の部分を変えたりはしました。
―8分も削れるんですか。どんな風に変わったのか楽しみです。
幸:それと、前編で試したいこともあるんです。それの原型を先に「ラクゴソニック」でやってみたんです。それが浪曲では使わない三味線の手があったりして、そのニュアンスをちゃんと曲師さんに伝えられてなかったこともあり、まだ改善の余地がある感じなんですね。そこは十三に向けて、もう一回見直したい部分ですね。今までの浪曲にないことも(曲師さんに)お願いするんで、ギリギリまで稽古も必要やと思っています。
―ちなみに、その新しい試みの狙いはどこですか。登場人物の分かりやすさか、腹ふり党を伝えるためとか。
幸:その試みは、そういった目的とは関係なくて、自分が思いついちゃって。ただ、やりたい気持ちです。
―自分がやりたいネタ的な意味ですか。
幸:そうですね。ただ、自分がめちゃくちゃやりたいことなんです。
―そういう気持ちから工夫が生まれるのは嬉しいですし、ぜひ十三で試してほしいです。
幸:そんな大したことじゃないですよ(笑)。ただ、自分はどうしてもそれが弾いてほしくて。
―幸太さんが、既存のネタにそこまで自分のやりたいことを主張して入れ込むのも珍しい気がします。
幸:そうですね。めっちゃやりたいことなんですよ。ネタを考えながら、難波を散歩してたら「これや!」ってなって。いっきに思いついたんでよ。ちょうどグリコの辺りで(笑)
―どんなパンク侍になるのか、印象も変わるのか楽しみです。
幸:工夫が入ったのと、人物を削ったところで変化はあります。筋はもちろんいっしょなんですが、演出はめっちゃ変わったと思います。
―お客さんもその変化を楽しんでくれるんじゃないでしょうかね。
幸:その点、後半はあんまり気づかれないかもしれないですね。自分的に変えた部分はあるんですけど。
―後半に課題と感じてることはありますか。私個人的には最後のバラシで浪曲の良さが出てるイメージです。
幸:最後は浪曲っぽくしましたね。伝わったり、伝わらなかったりするのが、中盤で猿回しを回想する場面で。アンケートで色々提案はもらうんですけど、自分のイメージは漫画の刃牙なんですよ。刃牙で、キャラのすごさを周りにいてた人が後に振り返るイメージなんです。
―「あいつヤバかった」的な!
幸:でも、それが伝わるか世代によるし。なんなら全員に伝わらんでもいいし。
―全員には伝わらないですね。でも、肉体が刃牙に近づいてるから、伝わりやすくなってるかもしれませんよ。
幸:あの場面はなくても、話としては問題ないんですけど。そこをどう改良していくかと。後編だけ見ても、面白いネタにどうしていくかが課題ですね。
―後編だけで演じられるようになるのは、この先に向けて重要な気がしますね。
幸:パンク侍って世界観が難しいから。腹ふりの概念も説明しないといけないし。三条凡児はその点、1話も2話も独立して演じやすくて、やっぱり浪曲を前提に書いているのと、小説原作だと違うなと感じます。
―後編をどうやったら独立して演じられるのか、それは課題になりそうですね。ぜひ春蝶師匠の意見も聞いてみたいところです。ちなみに、パンク侍を通して、メッセージとかってあるんですかね。
幸:自分はそういうのはないですね。面白く思ってくれたらいいというか。
―浪曲って聞いてるだけで気持ちいいみたい、歌のような要素もあるから、そういうもんかもしれないですね。
幸:自分は三条凡児の生徒会長編のバラシがめっちゃ好きなんすけど、なんでかって言うと、話が無茶苦茶なんですよ。全部都合のいい形になるし。
―冷静に読んだら理屈が通ってないこともありますよね。
幸:浪曲ってそういう所あるじゃないですか。笑ってまうくらい話はむちゃくちゃやけど、節で聞かせてくるみたいな。そういうのめっちゃ好きなんですよね。浪曲で緻密な伏線回収とかはなくてもいいかんなとか思ったりします。
―どっちもあってもいいけど、理屈を超えられるのは浪曲の節ならではですね。
幸:生徒会長編も台本読み込んだら、無茶苦茶なことも分かるんですけど、それでもええんやんって思わせるのが好きですね。
そういう意味で、パンク侍は原作を追い過ぎてるのかもしれないですね。浪曲にする上で、話を成立させることに必死やったから。
―そうですよね。後編に対しても、もっと開き直って、浪曲に合った都合のいい台本にしてもいいのかもしれないですね。
幸:大浦が猿回奉行になった経緯とかも省いたら、大浦の存在を消さないといけなくなるけど。
―それもありかもしれないですよ。後編単体でやる時は単純に殿様一行は猿回しを観に行ってたとするのも。
幸:極論、そうですね。後編は単体で聞かせることを考えると、大幅改良が必要かもしれません。なかなかすぐには難しいと思いますけど。
―会を重ねながら、少しずつ変わっていくのも面白いと思います。そして、また町田さんに観てもらいたいですね。
幸:こんな風に変わりましたって。そして、ちゃんと怒られたら嫌ですね(笑)
―これはパンク侍じゃない的な(笑)。それも面白い。でも、観てもらう時には色んな寄席でもやってるって状態にしたいですね。
太遊さんとのトークで印象に残ったことはありますか。
幸:これは太遊兄さんに言われたことだけが影響してるわけじゃないでんすけも、ビジュアルのことですね。痩せをキープした方がいいという話とか。
自分はこれまでもそういう事を言われた時に、わざと太ったりして、そういう考え方にアンチテーゼ的なのがあったんですよ。見た目で判断することに腹立ってたんです。でも、最近それが吹っ切れてきて。そういうもんかと思って、自分も見た目にも気を使おうと思い始めました。
―ぼくも最近も美を意識し始めてて。偶然にも同じタイミングで(笑)
幸:心の中ではそんなん関係ないと思いつつ、磨いたろかなと思ってます。
―幸太さんはもともとキチッとしてるイメージもありました。
幸:表に立つ仕事やから、多少気は使ってましたけど、それが売りではないと思ってましたから。でも、あんまり捻くれたらあかんなぁと。
―そうですよ。みんなが褒めてくれることはぜひ生かしてください。
最後に三条凡児について。あれはお客さんの反応が良かったですね。
幸:そうですね。分かりやすい笑いと、捻った笑いとをうまいこと合わせることができたと思います。
それと、浪曲にする前提で話を書いてくださったので、だいぶ浪曲にしやすかったです。
―そもそも、浪曲のために作家さんが原作を書くことがすごいことですよね。しかも、そんな試みをして成功するのも、すごい事実かなと思ってます。
幸:むちゃくちゃ嬉しかったのが、対談の時に、町田さんが「センスが似てるんでしょうね」ってボソッと言ってて、あれは一生忘れないですね。似てるんじゃないけどなぁ。こっちが寄ってるんやけどなぁと思いながら(笑)
―近づいていってるという(笑)
幸:まあ、むちゃくちゃ嬉しかったですね。
―幸太さんが町田さんにリスペクトがあるし、町田さんも幸枝若師匠の浪曲が好きで、その前提があってこその成功だったかと思います。こんなコラボが他の浪曲師と作家でも起きると嬉しいですし、幸太さんと町田さんがそのきっかけにもなってほしいです。
幸:そうなったら、めちゃくちゃ嬉しいですね。話題になってほしいですね。
―新聞にも載せてもらいましたけど、もっともっと話題にしたいですね。このネタはもっと広めたいですし、東京でも三条凡児の公演やりたいですね。