真山隼人 さくらさん山形凱旋公演・今年の一席(2023年11月通信より)
目次
1.山形凱旋公演
2.2023年の1席
1.山形凱旋公演
―今月はさくらさんの出身地である山形県で公演がありました。
隼:これはよかったですよ。
―隼人さんはXでも感動したと書かれてましたよね。どんな公演だったのかすごく気になっています。
隼:山形の文翔館という、昔は議員の人らが集まった様な場所で、中之島公会堂を少し小さくしたようなところでやりまして。
―そんな重厚感のある会場でしたか。
隼:舞台袖も古さも大体あれくらいでした。文翔館は二階席はなかったので、違いはそれくらいかな。
さ:キャパ二百人くらい。
―そもそも開催のきっかけは何だったのでしょうか。
さ:文翔館さんから直接話がきて。
隼:そのメールにも、沢村さくらさんの生まれ故郷の山形という風に書いてありました。
―会場もさくらさんが出身者と分かって、オファーしてるんですね。
隼:そうです。それで、ゲストを一人入れてほしいと言われて、落語家さんにしようと思ってたんです。山形に根付いた人で、誰にしようと考えてたら、たまたま笑助兄さんと居酒屋でばったり会って。笑助兄さんが元々山形の住みます芸人をやってはって、知名度もあって知り合いも多いので、これはお願いしようと思って、翌日に出演をお願いしました。
だから、山形に住んでました芸人二人ですよ。
さ:私は住んでた時、芸人じゃないけどね。高校生までなんで(笑)
隼:これは地元の人には絶対ハマる公演だと思ってたら、やはり大々的に取り上げてもらって。
さ:新聞も載ったし、笑助さんが出る「ピヨ卵ワイド」っていうテレビ番組にも出してもろたし。
―公演の前日に出演された番組ですか。
さ:そう。当日券でも17人も来て。こんなの初めてって言ってました。
―浪曲に興味ある人がけっこういるのですね。
さ:浪曲がかかるのが初めてやから、浪曲を聞いてみたいという人もいたみたいですよ。
―今、生の浪曲の舞台を見る機会って少ないですもんね。山形に住む浪曲ファンの方にとっては嬉しかったでしょうし、山形の方が浪曲を知るきっかけにもなったでしょうね。
隼:そうですね。公演よりだいぶ前に、知人から、山形で二人のポスター見たって連絡が来てたんですけど、実際に山形に着いたらいたる所にポスターが貼ってあるんです。
―さくらさんの凱旋感がありますね。
隼:入った蕎麦屋にも貼ってあるんです。「ポスターの人やで」って言いたかったんですけど、案外店の人は気づかんもんですね。
―まさか、来ると思ってないでしょうし。でも、それだけ告知してたら、今回をきっかけに浪曲に興味を持った人がいるでしょうね。
隼:それで行ったら、びっくりしましたよ!この人(さくらさん)は山形に知り合いはないと言ってたんです。
さ:転校もしてて、ずっといた訳じゃないからね。
―昔の知り合いが来るとかはなかったんですね。
さ:そう言っててんね。
隼:そしたら、まぁなんと、沢村さくらさんへの花がバァーっと。並んでたんです。
さ:高校のバドミントン部から。あと色んな親戚とか。
―それは嬉しい光景ですね。友達関係も繋がってて。
さ:楽屋まで訪ねてきてくれて。感動したね。三人で来てくれて。
―さくらさんの活躍してる姿を見たら、同級生は誇らしいし、嬉しいでしょうね。
隼:嬉しそうでしたね。今回の主役はこの人でしたね。
―いい会でしたね。続けてると、毎年新しいことがありますよね。
隼:だから、今年の教訓は色んな所に顔を出す。家で仕事を待ってたら、仕事は来ません。色んな所に行くから、新たな仕事の話が来るんです。
―お二人に出会った人も、いっしょに仕事をしたいと思うんですよ。
隼:今年は縁が繋いだ一年でしたね。人形劇もそうですし、山形公演もまた今後もありますよ。
さ:人形劇は、「ホレのおばあさん」何回やったな。
隼:何回もやってます。
―関西以外の公演もめっちゃ行ってますもんね。
隼:色んな所でやらせてもらって、人形劇にくっついて行ってた延岡で、今度は浪曲公演として呼んでもらえることになって。
―おお、それも縁ですね!そんな縁がまた来年もまた広がっていくことを期待しています。
2.2023年を振り返って一席
―2023年を代表する一席をそれぞれ教えてください。
隼:勧進帳ちゃいます。
さ:私も勧進帳
隼:もしくは鯛。両方同じくらいですね。
―鯛は花形でもNHKでもやっているので、大きな舞台は鯛で勝負されていた印象があります。
さ:鯛はそうですね。勧進帳はどこいっても勧進帳をリクエストされて。
―勧進帳は去年、ハルカスの独演会などでやり、そしたら今年はそれのオファーが増えたんですか。評判になってるのが実績で分かりますね。
さ:10月くらいまで勧進帳ばっかりで。
隼:多かったね。
さ:あれは私も体力使うネタやから、けっこう疲れたね。隼人くんはもっと体力使うと思うんやけど。
それと、二席のうち勧進帳を出すと、もう一席は鯛っていう流れもあったと思う。
隼:それは多かったですよ。
さ:一席勧進帳やったら、もう一席は軽いものでテッパンを出さなアカンでしょ。そうなった時の鯛。
―そういう場面では西村権次郎がよく出てるイメージがありました。
隼:西村の時もあります。ただ、最近じっと考えてみて、浪曲は一人一芸やから自分の作品というのを出さなアカンという思いがありますから、やっぱり鯛が出るんでしょうね。
―鯛の頻度が多くなってるとは思ってましたが、去年ネタおろしして、いっきに一番手のネタまで上がりましたね。
隼:せっかく文枝師匠くださったんですから、やっぱりめっちゃやりまくるべきやと思って。
―文枝師匠も隼人さんに渡す時、君は僕を、虎造にとっての伯山にしてくれるかって話もしてましたし。それはネタをもらった者のある種責任かもしれません。それを実現しているのも、素晴らしいです。
さ:寄席でもやれるし、短くもできるし。
隼:でも、元が落語やから、噺家さんの会に出る時は避けるようにしてます。
さ:そうやったんや。そしたら、今年の一席は鯛と勧進帳が選べない同点一位で。
隼:そうですね。それで僕は三位が違袖の音吉とか。
―音吉もいいネタですね。
さ:いいネタになったっていうか。
―けっこうネタとしては難産でしたもんね。手をつけようとしたのはだいぶ前だった気がします。
隼:一回目は取り下げて、二回目は倒れてしもたり色々ありましたけど。
さ:昔のネタをそのままやられへんし、時代で通じへんこともあるのを、なんべんも諦めずにやって面白くなったのは音吉と柳生二蓋笠。
―二蓋笠も面白いし、話もすっきりしてますね。音吉は隼人さんが音吉に見えるのが、個人的に好きですね。個人的な感覚ですけど、最近はネタおろししたネタが、一回きりで終わらずに、定着する率が高い気がします。
隼:よう考えたらそうですね。今年の浪曲全体で、自分の中でよかったと思えることは、去年くらいまでは台本の方に自分が寄っていってたんですよ。そうじゃないんですよ。台本を自分に寄せる。そしたら、自分のキャラでできる。
―音吉が隼人さんに合ってると思ったのは、実はそういうことだったのか。
隼:寄せてるんです。構成も寄せるんですよ。そうなってくると、出来んネタもあります。
ただ、それをやり過ぎると、何を聞いても同じ浪曲やって思われるんです。だから、それにならんように気をつけなアカン。
―過去の浪曲から、そんな教訓まで読み取って学んでるんですね。
隼:それを先人も乗り越えてきましたから、自分も乗り越えないとと思いますね。ここ数日、自分の浪曲を聞いてて、とりあえず台本を自分に寄せるという点では及第点かと思いますね。浪曲はまだまだですけど。今年の成果はそこです。
幸枝若師匠に言われた「お前は四郎若兄ちゃんのネタやったら四郎若兄ちゃんになるし、小円嬢師匠のネタやったら小円嬢師匠になる。そこはちゃんと考えろよ」これをこの一年で脱却できたかなと。それは勧進帳と鯛のおかげです。硬いのと柔からかいのと両方やって。
さ:でも、どっちも隼人くんらしいもんね。
隼:それでいいです。勉強になりました。本当に勉強になりました。