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京山幸太 咲くやこの花賞受賞(2023年12月号より)

2024.01.22 13:34

―まずは、咲くやこの花賞の受賞おめでとうございます。

幸:ありがとうございます。

―受賞を受けての感想を教えてください。

幸:大阪の演芸担当記者さんたちが選考する賞だそうで、そういった色んな演者さんを見ている方に選んでもらったことは、単純にむちゃくちゃ嬉しいなと思いました。

※会議の委員は20名程度とし、報道機関の芸術文化担当記者を中心に、大阪市経済戦略局長が委託する。(令和5年度「咲くやこの花賞」贈呈要綱・細則より)

―一年間を通して、広く演芸を見られている方々の評価なので、賞レースとは違う視点ですよね。大阪の文化への貢献度や期待など、一年間の活動に加えて、将来の活躍まで考えられているのだと思います。受賞理由では創作面と伝統的な面の両方を評価されてましたね。

幸:受賞理由を読むと、町田康さんのおかげでもあるし、そのきっかけを作ってくれたのは十三浪曲寄席なので、有り難いことだと思っています。それに、古典の実力についても書いてたのは嬉しいですね。新作もやりながら、古典もちゃんとすることが自分のやりたいことなので。

―咲くやこの花賞に対しては、これまで意識はされていましたか。

幸:意外かもしれないですが、咲くやこの花賞はずっと取りたくて。

―意外です。賞には関心がないイメージがあったので。

幸:というのも、この賞は自ら応募しなくてもいいので。

―そこは幸太さんらしいです。

幸:エントリーするのが嫌なので。活動を見てくれて、取れるなら取りたいなと思ってました。

―師匠は今回の受賞を喜ばれてましたか。

幸:師匠に報告したら、「よかったあ、他におらんかったんかなあ」みたな感じで(笑)

―リアクション薄いですね。

幸:賞で一喜一憂するタイプでもないので。余程の賞を取らないと何も思わないんじゃないですか。

―沢山賞を取ってますもんね。町田さんには連絡しましたか。

幸:今回はしてないです。文化庁の芸祭の時はすぐ連絡しましたけど。「そんなことをいちいち言われても」と思われる気がしまして。言った方がいいですか?

―それは知らない(笑)そんな恋愛相談じゃないんですから。

幸:芸祭の時にも言ったし、毎回言うもどうなのかと。

―受賞理由に町田さんの名前もありましたから、報告することは全然違和感ないですよ。

幸:そうですかね。

―ぼくも受賞を知って嬉しかったし、それは町田さんも同じかと。連絡するのがいいかと思います。

幸:えー!

―大丈夫ですよ。言った方がいいですよ(笑)

賞に話を戻すと、受賞理由では「パンク侍、斬られて候」や「三条凡児」に触れられていたので、賞にまで繋がったのは企画として一つの成功だったと思っています。同じような企画をすれば必ず成功する訳でもないので、そこは幸太さんの創作力や町田さんとの相性の良さがあったからこそでしょうね。

幸:嬉しいです。

―ここ数年で創作面での評価も増えてきた気がします。

幸:お笑いやっていることも絶対意味あるし、これってウケるねんなという感覚が身についたことも影響しているかと。

―その点では、受賞理由に幸太さんのお笑いの活動について触れられていなかったのは悔しいですね。お笑いで養ったエッセンスがまだ、万人に分かる形で浪曲に取り入れられてないのかもしれません。

幸:それはホンマに思います。それは自分が悪いですよね。まだ、R-1で準々決勝までしかいってへんし。決勝以上にいかないと意味がないので。

―決勝以上ということは優勝と捉えていいですか。

幸:そうですね。優勝すると思って、やっと決勝いくかどうかやと思うので。

いずれ、浪曲に専念できる時が来ると思うんですけど。今これだけ、お笑いも力入れているので、浪曲だけに力注いだら、自分自身でヤバイんちゃうかとも思ってて(笑)

―言いますねー(笑)

幸:自分で言うのもなんですけど。創作面とか。

―創作面については、私も幸太さんにはどんどん挑戦していってほしいと思っています。春蝶師匠も「パンク侍」のような難解な話を浪曲にしていることがスゴイと評価されていましたね。町田さんの原作を浪曲にするにあたっては役立っているのは、町田さんの本を沢山読んで理解しているからなのか、それか浪曲の型が染みついでいるからなのか、どちらの影響があると思いますか。

幸:どっちもですかね。それを自分で認められるほどではないんですけど。ストーリーを聞いたら、だいたい浪曲だとこういう構成になるかなとか、あの話と似ているから、部分的に引用できるなとかは、すぐ想像できるようにはなってきました。

そういう話で言うと、ちょうど最近、考えていたことがあって。自分は、音楽をやっていた頃は、音楽一家に生まれた人が羨ましかったんですよ。

―子どもの時から音楽が当たり前のように生活の中にあるような環境ですよね。

幸:楽器が家にあって、教材になる人が側にいて、音源にもずっと触れられて、ズルいなと。それに比べて、自分は何もないと思ってたんですけど、よく考えたら自分の周りにはずっと本があって。むちゃくちゃ本を読んでたんです。

―そうなんですか。

幸:町田さんと出会ってから、特に町田さんの本を読むようにはなってますけど、普通にずっと本は読んでたんですよ。だから、音楽一家に生まれる感じで、自分は読書の一家に生まれてたんやなって。それが浪曲にも繋がってるんやって最近気づきました。自分は当たり前に本を読んでたんで、それが特殊なんやと気づいて。

―元々、本を読むのが得意だったんですね。

幸:むっちゃ得意でした。それは生活環境に取り込まれてたからだと思います。その経験が、演じることや人の心を想像することにも役立っているだろうし。

―読むのも早いとか。

幸:読むスピードは普通なんです。けど、習慣化されているというか。電車通学だったんで、その間はずっと本を読んでたし。三国志とか。家にある本をテキトーに取って読んでましたね。

―それだけ本を読んできて、町田さんの本はどこが刺さりましたか。

幸:まずカッコいいですよね。

―まさかの見た目から入ってきましたね。

幸:見た目や対談の時の受け答えから、入っていったんですけど、(町田さんには)カッコつけんなやって思想があると思うんですよ。そこが刺さったんですかね。浪曲もそうじゃないですか。オシャレするもんじゃなくて、さらけ出すモノというか。だから、自分自身アフリカの音楽とかブルースが好きで、それは人間の底の部分に近いからかなと思ってて。泥臭いものが好きなんだろうと思います。町田さんにもそういう点を感じますし。ハードボイルドな主人公というよりは、人間らしい嘘のない姿というか。そうなりたいなと思いますよね。

―町田さんの小説では、着飾ったものなかったり、むしろそれが笑いにもなったりしますよね。

幸:そこの共通項もありますね。

―人間の影の部分を書いていても、町田さんは暗くないですし。堕ちる話だと暗い小説もけっこうあるじゃないですか。

幸:たしかに、そうですね。ちょっと戯けてみたり。そこも自分は好きですね。自分は太宰治や芥川龍之介ほど暗くないですもん、人として。

―そうですね(笑)

幸:そこまで悩むかと思ってまうから。

浪曲でも全く笑いのない演題ってほとんどないですし。「弁慶」も「ハゲキヨも景清もあるか」みたいなのもあるし。全くないのは「仁吉」「笹川の花会」くらいですかね。

―任侠の話はそれで良さもありますが、やはり笑いは共通項ですね。

話がまた全体的なところに戻りますが、本を読んでたことが現在や今後の浪曲活動にどんな影響があると思いますか。

幸:純粋に本を読んでいたからこそ、自分は物語を書いたりするのも好きなのかもしれないです。

創作の中でも絵は下手やし、音楽もそんな才能があった訳ではないので。物語は、天才とは思わないけど、好きやし、そういう意味で向いてるんだと思います。

書くって大変なんですよ。でも、それが最近慣れてきて、早くやりたいなと思ったり、楽しいと思えるので、それはええ事やなと思っています。しんどいですけどね(笑)

―これからもっと色んな浪曲を生み出してくださるのを楽しみにしていますよね。

幸:将来は、売れさえすれば、古典だけやってたらいいと思ってたんですけど、それも違うと思うようになりました。常にアップデートしないといけないし、一生書き続けるんやろなと思っています。

―幸太さんはこれからの浪曲界を牽引する人ですから、古いモノだけではなく、新しいモノを作っていってほしいと思います。さらに、師匠からの芸も受け継ぎながら、新しい浪曲を作っていけるのが幸太さんの魅力だと思いますので。

幸:それは最初に師匠にも言ってもらってて。「いくら売れても古典が下手やと惨めやぞ」って。

―師匠からそんな話もされてたんですか。

幸:お前は売れなアカンとも言われたし、売れても古典下手やったら惨めやぞとも言われました。

だから、そうなったらアカンという思いもありますし、単純に浪曲が上手くなりたいと思って入門しているんで。浪曲が自分にはちょうど良かった気がします。本当に今の流行のモノだけじゃないし、古典だけでもないし、ちょうどいい世界に入れたなと思います。