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一期一会~オーストリア編~

2024.01.31 22:00

ヨーロッパに一度だけ訪れたことがある。


年に二度。多ければ三度。叶うなら四度、旅に出ていた頃があったが、アジア圏内や比較的近場を選んでばかりだった。憧れはあったものの、休暇にあまり日数をかけられないことを理由に、往復だけで三日を要するヨーロッパへの旅行に、そこまで熱い思いを持つことができなかったのである。


そんな私が、どうしても「行ってみたい」と思った国があった。オーストリアである。理由は3つ。音楽の都ウィーンが首都であるということ。悲劇のフランス王妃、マリー・アントワネットの故郷であること。そして、心を動かされたミュージカル「サウンド・オブ・ミュージック」の舞台であるということだった。


オーストリアは天才音楽家モーツァルト生誕の地である。二十歳を二年ばかり過ぎた頃からミュージカルの世界に片足を突っ込んでいた私は、決して巧みではないけれど、歌や楽器を演奏することを始め音楽が好きだった。本番に向けて厳しい稽古を続ける中で、声楽家や音楽家の師匠や先達たちが話してくれる、麗しの都ウィーンに思いを馳せたものだった。


フランス王妃のマリー・アントワネットの華麗だけれども悲劇的な人生については、池田理代子作コミック『ベルサイユのばら』と遠藤周作の小説『王妃マリーアントワネット』で知った。ルイ15世に嫁いでからは、わざとらしいほど派手で馬鹿馬鹿しい位豪華絢爛の生活を余儀なくされたマリーだったけれど、彼女が少女時代を過ごし、幾度となく懐かしんだシェーンブルン宮殿は、もっとシンプルだったと聞く。伝統を重んじてはいるけれど調和の取れた美しさ、穏やかではあるけれど明るい色合いを生かした宮殿。オーストリアの君主であったマリーの母、マリア・テレジアは皇子や皇女の教育に非常に熱心だったという。センスの良い住まい(宮殿)を建て、そこでのびのびと子らを育てることも、彼女の教育方針のひとつだったのかもしれぬ。そんなシェーンブルン宮殿をどうしても見たくなったのである。


ミュージカル『サウンド・オブ・ミュージック』は改めて記すこともない位、有名な映画であろう。1938年のオーストリア。修道女見習いの家庭教師マリアが、厳格な退役軍人トラップ大佐の家にやってくることからストーリーは始まる。大佐は妻を亡くし、7人の子ども達を育てていた。遊びも歌も知らない子らに、マリアは歌を歌うことを教える。暗く寂しかったトラップ家に、マリアと歌を通して明るい光が射し込んでいく・・・という物語。この映画の中に、オーストリア人が国歌のように愛している歌が登場する。それが『エーデルワイス』だ。私はこの歌が本当に好きで、一度舞台で歌ったことがある。


エーデルワイス エーデルワイス 

かわいい花よ 

白い露に ぬれて咲く花 

高く青く光る あの空より

エーデルワイス エーデルワイス 

明るく匂え


(童謡伝道マガジンふんふん「今月の童謡」より)


オーストリアは、その歴史において国を失う憂き目に遭ったことがある。しかしそこに住む人々は不屈の精神で祖国を愛し続けた。映画を通して彼らの愛国心を垣間見たように思う。


そんなわけで私は、オーストリアに興味を持ち、訪れたくなったのだった。シリーズ一期一会、オーストリア編、始めます。

(つづく)