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オクタキの野球コラム 2024年1月号 「ユーピーアールスタジアム人工芝化に思う」

2024.01.27 09:30

 ユーピーアールスタジアム(宇部市野球場)の人工芝化が発表されたのが昨年12月1日。4月のお披露目に向けて敷設工事の様子が「宇部日報」で公開された(1月23日)〓写真①〓。


 昔はプロ使用の野球場でも芝の管理が難しく、地方球場ともなると「ハゲだらけ」。どこまでが内野でどこからが外野だかわからない有り様だった。今では技術も進み、グランドキーパー方々の努力もあり、米大リーグにも匹敵する美しい天然芝が日本各地の野球場で見られるようになった。米大リーグではドーム球場にあっても天然芝ということが少なくない。


 それだけにーー。今回の宇部の人工芝化は時代の逆行と感じる。なにしろユーピーアールの天然芝は美しかった。



 野球場における人工芝誕生のストーリーはさながらアメリカンコミックである。1965年、テキサス州ヒューストンに世界初の屋根付き球場「アストロドーム」が誕生した。当初は天然芝。屋根はベージュ色のボードで覆われており、採光に問題はないとの触れ込みだった。 

  

 ところがーー。この「ベージュ色」がボールの色と同化し「外野フライが見えづらい」というクレームが選手から噴出。これではいかんと慌てて屋根の色を塗り替えたところ、こんどは芝生がみるみる枯れてしまった。泥縄式に生まれたのが人工芝。その名も「アストロターフ」である。

 

 写真②は1966年敷設の様子をとらえた貴重な一枚。遠征してきたフィラデルフィアフィリーズの看板選手、ディック・アレン〓写真③〓の発言が伝説として語り継がれる。「この芝生を馬が食べなければオレはここで野球をしないからな」。



 日本初の人工芝野球場はご存知、後楽園球場(1976年)。二番目は阪急西宮球場でここは当初外野のみだった(1978年)。選手の膝や腰に負担がかかり故障を誘発することは誰の目にも明らかだったが、利益優先からのちに誕生する野球場ではすべて人工芝が敷き詰められた。横浜スタジアム、西武ライオンズ球場、東京ドーム、福岡ドーム…キリがない。ファンのあいだにも「人工芝=近代的でカッコいい」という意識があったのも事実だろう。ようやく風向きが変わったのは2000年代に入ってからである。

 

 2000年、元より外野天然芝だったグリーンスタジアム神戸(現ほっともっとフィールド神戸)が内外野天然芝化の先鞭を付けた。続いて2001年にサンマリンスタジアム宮崎(現ひなたサンマリンスタジアム宮崎)が誕生。そして2010年に開場したMAZDA Zoom-Zoom スタジアム広島の美しいグラウンドは衆目を集めた。

 

 米大リーグでは人工芝はとっくに姿を消し、2024年現在全30球団のうち人工芝球場を持つ球団はわずか2チームのみ。日本がいかに立ち遅れているかがわかる。


 ユーピーアールスタジアムの今回のお色直しにはいろいろな事情があることと思う。人工芝の性能の向上もあるだろう。ケチをつけるつもりはない。しかし、あの美しい天然芝と黒土のコントラストが姿を消すことはやはり惜しい。



 最後にオマケを。1978年当時の宇部市野球場のスナップ〓写真④⑤〓。外野フェンスに丸い穴が無数に空いているのがうっすらとわかるだろうか。建設時に「セメント不足」だったことから苦肉の策だった。「ズームイン!朝」でも地域の話題として採り上げられ、当時の原田球場長が出演。「外野へ転がったボールが穴に入ることはなかったんですか?」というリポーターからの質問への答えはーー。ご想像ください。


追記:昨年かぎりで引退されたユーピーアールスタジアムのグランドキーパー・福重誠さん、おつかれさまでした。我々に野球をありがとうございました。


文 奥瀧隆志